これまでの著者らの取組みの発展系として,一口毎に味を変えられるデバイスの提案は興味深く,WISSの登壇発表として議論を呼ぶ提案になっていると判断された.一方で,著者ら以外の関連研究がほぼ述べられていないことによる研究の位置づけの不明瞭さ,LLMと本研究の位置づけの不明瞭さ等を中心に,記述に関しては問題を抱えていたため,条件付き採録と判定された.
自分たちの研究の中での位置づけはわかりましたが,味メディアとしての位置づけが分かりませんでした.関連研究等を適切に引用して本研究の位置づけを明確にすると良いと思います.その際に,本研究ならではの課題設定,解決すべき問題,をクリアにし,それが満たされるようなデザイン,機能であることを示せば独自性が出ると思います.
5: 採録
2: やや専門からは外れる
これまで研究されてきた味ディスプレイをスプーン型デバイスで出力できるようにした,という研究であると理解しました.作られたものはすばらしいと思うのですが,スプーン型にしたことによる使い方の変化に伴い,要求仕様も変わってくると思われます.特に,ひとくちひとくちに味を付けるというコンセプトから,ものをすくってから口に入れるまでに味をつけなければいけないという要求がこれまでのシステムと比べての違いではないかと思います.それに対して,本論文でもディレイに関する評価がされていて素晴らしいのですが,実際にかかっている時間からすると,普通の食事シーンでは,すくって,少し待って,それから食べる,といった形になりそうです.せっかくの要求変化点なので,そういった問題に対策するような方式が提案されているとよりいいかなと思いました.
要求仕様としての重さやディレイ制限などを明確にするような実験が含まれていると,計測結果と実用性の関係が推測しやすくてよいのになと思いました.
3: どちらかと言えば不採録
1: 専門外である
本論文では、スプーン型の味覚提示デバイスの開発に関する話と、LLMを用いた味覚調整インタフェースに関する話が混ざっている。序論と関連研究を読む限り、味覚提示デバイスの開発にフォーカスがあるようであるが、4章からはLLMの話に変わり、ではこのLLMインタフェースに関する関連研究や本提案の新規性はどこにあるのかが議論されていない。また、WISSでは必ずしも評価は必要ではないが、LLMインタフェースにおける曖昧な発話による味覚の指示が本当に有効であったかどうかは評価されていない。
・2章「参考文献」は「関連研究」と書くのが普通ではないでしょうか。
・「味覚コンテンツ」の定義はなんでしょうか。
・「味覚コンテンツのコンテキストアウェアネス」の意味がわかりません。
・4.1「味の再現」でユーザのフィードバックは「味が変わるのが面白い」であって、味の再現ができているかどうかにはなっていないと思われます。
・参考文献のほとんどが著者のグループによるものなのが気になります。著者のグループがこの分野でのリーダーであることは認めますが、論文の客観性を高めるためには、他者の論文をもう少し引用するかされた方がいいと思います。
5: 採録
2: やや専門からは外れる
概要:
スプーン型のデバイスを用いて基本五味を添加可能な味覚インタラクションを実現している。
またスプーン型であるため、一口ごとに調味が可能であり、その調味作業にLLMを用いた自然言語による指示を試みている。
一口ごとのコントロールという点で新しく、刻一刻と変化するユーザの味覚コンテキストに対するディスプレイ技術となっている。
新規性:
これまで著者らが提案してきたコンピューテーショナルな味覚技術に対して,リアルタイム調味可能なスプーン型デバイスを用いることで,一口ずつのコントロールが可能な点において新規性が認められる.
有用性:
実環境(ミルク)に対し,イチゴミルクやクラムチャウダーなどの味の変化を一口ずつ変えることができる点や,LLMを用いた複雑な味表現の翻訳機能の実装等,実環境仕様を強く想定した内容になっている.
正確性:
調味機能の成分やその量,LLMのプロンプト等十分に正確に記述されている.
記述の質:
やや表現で気になる部分はあるものの,大きな問題はない.
*改善コメント(議論):
1章で、絵の具に例えながら卓上調味料を用いて調味することは難しいとありますが、LLMを通してコントロールする提案手法に対して優位に難しいとは思いませんでした(人に依る気がします)
勘に頼った手法に比べ、調味の定量化や再現性の担保という点は同意します。また、通常調味はピンポイントではなく料理の数十パーセント~全体に行うため、非可逆である点も認めます。(一方で私は家系ラーメンのスープにお酢を添加する際は、スプーン単位で行います)
将来的にはユーザコンテキストに合わせるという話がありますが、例えば1章では「ユーザの現在の口内の状態に合わせて」とあります。これは将来的にどのように実現されるのでしょうか。
単純にこれまで食べてきた流れに合わせたもの、学習してきたユーザの趣味嗜好性といったコンテキストのことだとは思うのですが、
口内の状態というからには、味覚センサを口内に入れたり、脳の味覚野の読み取りといったセンシングを利用することもあり得るのでしょうか?
(4.2章にも、現在の味の感じ方を取得することができれば、とあるので気になりました)
また、その直後の表現「味覚コンテンツのコンテキストアウェアネスを高めるのに役立つ」というのはどういう意味でしょう。味覚コンテンツをコンピューテーショナルに五味コントロールする技術以上にコンテキストアウェアも行うのでしょうか?
今後、大規模実験を行えば、味覚の好みのクラスタリングもできるものでしょうか?
5章の「ユーザは恐れることなく味の探索という能動的活動を行うことができる」というのは大変興味深く思いました。確かにごはん屋さんで味の台無し化を危惧していた気がします。
6章の制約において、水に溶かした溶液を用いたため味が薄くなったとありますが、実験や一次利用で牛乳を対象とした利用に限定するのであれば、牛乳に溶かせばよい気もしました。
汎化性は落ちますが、フレンチのコースだとお皿ごとにカトラリーを変えるので不自然では無い気もします。
*その他:
コンテキストと文脈でややユレがあるように見えました。別のニュアンスで用いているかもしれませんが。
4.2節でLLMと味でインタラクションするとありますが、HFIとしては、LLMを介してユーザと味でインタラクションするという感じでしょうか?
5: 採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
スプーンを口に運ぶ都度において、デバイス単体で基本五味の合成およびスプーン上での提示が可能なカトラリー(スプーン)型の味覚ディスプレイと、LLMとの組み合わせ等のアプリケーションの提案、またスプーン型味覚ディスプレイの未来ビジョンが議論されている論文だと認識しました。
スプーン型の味覚提示ディスプレイは従来研究として存在していますが、基本五味のスプーン上での合成という点において提案デバイスには新規性があると思います。
論文中では、カトラリー上で基本五味が合成できることの意義(未来ビジョン)について丁寧に述べられており、LLMと組み合わせた自然な味の調整行為も自然で面白いと思いました。
・ 論文中にデバイスの大きさ(長さや重さ等)についての記述があると良いと思います。
・ 我々の普段の食事において、一口ごとに味を変化させる食べ方は我々は普段からお皿(複数もしくはいくつかのお皿)の中にある料理のどの部分を切り取って口に運ぶかを都度選択しながら決めていることから、ある程度無意識にやっている行為でもあると思います。
今回のデバイスがこのような自然と行っている食べ方をどのように拡張できるかについても、議論してみると面白いと感じました。
レビュースコアは5,5,5,3と高く,研究内容は充分価値があると判断されました.ただ,関連研究に著者らの過去論文が大量に引用されている一方で,他者の論文がほぼ参照されていません.これは一般に学術論文としてはデスクリジェクトされるレベルの不備です.そこで,本論文は採否判定会議において,「条件付き採録」と判断されました.条件は下記の通りです.また,条件以外にも,レビュアから有用なコメントがありますので是非参考にしてください.
採択の条件
・味メディアに関するモノなど,関連する研究を複数引用して,本研究の位置づけを明確にしてください.また,著者らの過去論文も,ひたすら並べるのではなく,経緯の説明に必要なものに絞って分かりやすく記述してください.