本論文は著者らが提案するAIRR方式を応用した空中立体像提示手法を用いて方向指示の精度評価を行ったものである.提案するディスプレイにおいて2D表示と3D立体表示で方向指示を行った際の精度の比較は試みとして新規性があると判断された.行われている実験については,方向指示の必要性等の前提条件や提案する空中立体像提示手法の視認性についての指摘,追加の統計解析の必要性の指摘等があったため,委員による議論の結果,これらの修正を条件とした条件付き採録と判断された.
各査読者から指摘のあった,実験の前提条件や追加の統計解析,また以前の発表を新システムの提案として論文の提案部分に含める改善をしっかり行うことで,論文誌論文としての水準に達する可能性もあると考える.
3: どちらかと言えば不採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
テーブル型ディスプレイ上で矢印等で方向を指し示す場合に,これを2Dの矢印表示ではなく,空中立体映像で行うことで方向指示精度を向上させる提案がなされている.またこれを検証するために,空中立体映像が提示可能なディスプレイを用いて2Dと3Dの方向指示手法を比較する実験を行っている.
空中立体映像ディスプレイを用いた3D空中映像と2D表示による方向指示精度の比較は新規性があるといえるかもしれないが,立体映像の提示手法は様々な手法があり,その手法ごとに立体視映像の視認性はそれぞれ異なるものであると考える.
今回実験に用いられているAIRR方式とLooking Glassを組み合わせた立体映像提示手法についても空中立体視映像を提示可能なものだが,今回得られた実験結果もあくまで今回用いられた環境に強く依存した結果であると考える.
そのため,実験結果を一般化するためには,他の空中立体視ディスプレイ等も用いた実験を行い,その結果にたいする議論が必要であると考える.そのため,有用性については限定的なものであると考えた.
以上にもとづき,ボーダーライン上であると判定した.
使用されているディスプレイについては解像度等は元の裸眼立体視ディスプレイや反射材の密度に依存し,実際に用いられた構成ではそこまで高くはない印象だが,実験で用いられた線分による方向指示がそれぞれ2D/3D表示においてどのように見えていたのかが論文中の画像から確認できなかったので,論文中に図として示す必要性を感じた.
また,使用しているディスプレイの視認性の制限から,3D線分のみならず,2D線分の視認性も損なわれている恐れがある.そのため,机上に実物体の矢印(2D/3D)を置いた場合や,2D表示において一般的な2Dのディスプレイを用いた場合,また本来の3Dキャラクタを用いた指差しなどの方向指示についても比較されていると良いと感じた.
また,最終的に空中立体映像3Dキャラクタでの方向指示を行う場合の工夫について,得られた実験結果からどのようなフィードバックが可能かなどについての考察もあると良いと感じた.
4: どちらかと言えば採録
2: やや専門からは外れる
■提案されている内容の新規性(先行研究との差分が十分にあるか)
立体映像による3D映像の方が2D映像よりも方向指示に長けている、という直感的な結論を、ユーザテストに基づいて定量的に示したことに新規性が見られます。また方角に応じた特性を示していることも新しいです。
■有用性(実際に役に立つか),正確性(技術的に正しいか)
上記の結果は立体映像を使った情報定時をデザインする上で有用です。また実験設計も正しいです。
■論文自体の記述の質(分かりやすく明確に書かれているか)
記述は明解です。ただし実験条件の説明をもう少しした方が良い箇所があります。また、図をもう少し分かりやすくできそうです。
■サマリー
オリジナルかつ有用な結果が示されているために判定はポジティブよりです。
■採録の条件
条件1
2D映像での線分とはどのようなものか、説明を追記してください。(線分の寸法については47mm x 0.235mm x 0.235mmとの記述がありますが、2D映像では47mm x 0.235mmの長方形(厚みは0mm)が表示されるということでしょうか。なお、2D映像での線分と3D映像での線分とはどのようなものか、模式図を使った説明があると良いのかもしれません。)
条件2
「18番と19番の被験者2名は2D条件と3D条件とで線分が指示した方向を推測した際の角度誤差に差が出なかった.」とありますが、この「差が出なかった」という判定を統計解析に基づいて行ってください。また、18番と19番のみに差が出なかったのか、逆に差が検出された実験参加者は8番のみなのかも統計解析に基づいて示してください。
HMD環境でも同様の検証を行って本論文の結果と比較すると色々と判明しそうです。また、(特にHMD環境では)図1、図2や[6]で使われているようなアバタを使っての方向指示の精度調査も行うと良いと感じました。
図7に被験者の位置を追加すると実験条件が分かりやすくなりそうです。
4: どちらかと言えば採録
1: 専門外である
空中立体映像を提示することができるテーブルの実装方法を提案し、そのテーブルを利用して空中立体映像を用いた場合と平面映像を用いた場合の方向指示の認識精度を比較する実験を行った研究です。
本研究で示される結果には新規性があり、有用性があるのだろうと推測できますが、研究の前提がわかりやすく提示されていない部分があるために十分に伝わらないもったない状態になっていると思います。
まず、空中立体映像を用いると方向指示の認識精度が向上するという前提が本稿の説明からは納得しづらかったです。キャラクタを平面に投影すると欠落するのが前後方向の情報であるということがわかりやすくなるような図などは作れないものでしょうか。その点を受け入れたとして、本稿で行った実験では提示されるのはキャラクタではなく線分なので、2条件の差があるという前提がかなり失われてしまっているようにも感じられました。差があるという結果を見てもまだ不思議に感じます。
また、本研究で最終的に目指しているアプリケーションで10度単位での方向指示が必要だという前提も本稿の説明からは納得しづらかったです。「近い距離にある円柱を順に指し示すと方向を推測する手がかりになる」との理由で実験からは省く処理を行っていますが、実用場面を想起すると、これは方向指示をわかりやすく行うノウハウの一つと言えるのではないかと思われます。不自然な実験設計になっていないでしょうか。机上にある複数の物体を説明するというコンテンツを作るのであれば、物体の配置もわかりやすく行われることが期待されるのではないでしょうか。本研究の問題意識が十分に伝わるような応用例が示されるとわかりやすく納得できると思いました。
既に説明したことの繰り返しになりますが、空中立体像を用いると方向指示の認識が向上するという前提、方向指示の認識精度が高い必要がある応用事例を前提として示していただけると、私のような3Dコンテンツに疎い人間にもわかりやすい論文・発表になると思います。
インタラクションでのインタラクティブ発表を引用し、提案手法は既発表で、本研究の新規性は実験にあるように記述されていますが、インタラクティブ発表は non-archival として、手法の提案+有用性の検証という筋書きに改めた方がよいのではないかと思います。
4: どちらかと言えば採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
著者らの開発した空中立体映像投影システムにおいて、3次元キャラクターが指し示す方向の認識精度を、本システムと2Dの場合とで比較した論文。
新規性:ハードウェアは2022のインタラクションで提案したものと同じだが、3次元キャラクターの示す方向の精度評価を行なって点は新しい。
有用性:2Dと3Dの比較にはある程度の有用性がある。
論文自体の記述の質:わかりやすく書かれている。
・ハードウェアに関する説明、特に図2〜4がインタラクション2022と同一なのは論文の新規性を損ない、かつ冗長だと思われるので、別な図を使うか最低限にするべきだと思われる。
・個人差に関する図8より図10の結果を先に議論すべきではないか。また、図8は2つのグラフにすると比較しづらいので、図10のように1つの図にまとめた方が良いと思う。
・ユーザ実験時に、ユーザの顔の位置はチンレスト等を使って固定した方がより正確な評価ができるのではないでしょうか。
空中立体映像が提示可能なディスプレイ上で,2D表示と3Dの立体映像を使った場合の方向指示の精度比較が行われている.論文中で行われている方向提示の精度評価については,2Dと3Dを比較する試みなどについて,どの査読者からも一定の新規性があるという評価がなされている.
一方で,実験結果の有用性については限定的であるという指摘もある.
以上をもとに査読者および委員間で審議した結果,「条件付き採録」とすることとなった.
これにともない,採録の条件について次のようにまとめる.
・提案されている立体映像方式はAIRR方式をベースとした独自のものであるが,論文中ではその視認性がどれほどのものなのかが論文中から読み取りづらい.特に,実験で提示した2D線分と3D線分の見え方(および空間上への配置)の違いがよくわからないため,これらが読み手に明確に伝わるような説明の改善に加え,適切な図も追加(もしくは既存の図を変更)すること.
・またこれらの視認性の制限を考慮した時に,得られた結果がどれほど(例えば他の空中立体映像方式の映像へ)一般化できるかについての考察も追加すること.
・また今回の実験で使用されている立体映像提示手法は,インタラクション2022において同一著者らが発表した論文内で提案されている手法である.本論文はこのシステムを用いた評価中心の論文であるが,この空中立体映像提示手法についても,本論文の提案として論文中で述べたほうが新規性がより明確になるため,そのように論文の記述をあらためること.
・また,追加の統計分析の必要性についての指摘については,「差が出なかった」という判定を統計解析に基づいて行うか,もしこれが難しい場合は「差が出なかった」という表現を弱めるような表現に改めること.
また,採録条件からは外れるが,下記の指摘についても改善を求める.
・実験の前提となる方向提示の必要性等に関連して,提案システム上で評価されているような「10度単位での細かい方向提示」を行う必要性が具体的なアプリケーションとしてどれほどあるのかについての記述の追加.
・また「空中立体像を用いると方向指示の認識が向上する」という前提条件について説明不足が指摘されているため,これについての具体的な説明の追加.
以上のほか,各査読者から指摘があった細かい改善案についても可能な限りの修正を求めたい.