査読者1

(Primary)レビューサマリ

キーアイディアの面白さから,WISSでの活発的な議論ができる内容だと思われます.一方で,査読者全員から,被験者実験や既存手法との差別化が不足している点が指摘されています.以上を踏まえ,論文誌への推薦には追加実験が必須であると考えています.

(Primary)採録時コメント

本研究では,高速プロジェクタを用いて運動物体の残像の色を制御する手法を提案されている.既存手法との比較や人間の被験者に対する評価実験が不足している点など懸念はあるものの,アイディア自体が興味深く,WISSでの活発な議論が期待されることから採録と判定された.

(Primary)論文誌として必要な改善点

- 残像効果を利用した既存手法(例:ホログラムファンや海外の研究事例)との比較

- 人間の被験者が実際にシステムで表示された図形を見る評価実験
(現状は、カメラでサンプリングされた映像での評価にとどまるため)

総合点   (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4: どちらかと言えば採録

確信度   (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2: やや専門からは外れる

採否理由

著者らによる先行研究[11]では,高速プロジェクタを基に,「人間の動き」に対してモザイクパターンを埋め込む技術を提案していたが,この技術を応用し,今回は「物体の動き(残像)」に対して絵を表示する手法を提案している.

技術的には,人間の目が60fps以上はほとんど識別できないことから,投影速度が960[fps]のプロジェクタによる光刺激を線形的に統合して知覚する.この特性を利用し,16枚分(= 960 / 60)のフレームを投影することで,運動時の残像に目的の色を提示するものである.アイディアに面白みはあったものの,以下の点でいくつかの点に疑問があるため,今後の参考にしてもらいたい.

- 残像効果を利用するアイディア自体は,3Dホログラムファンに類似している.
ホログラムファンは,動く物体(プロペラ部分)を直接LEDを埋め込む + 残像効果で絵を表示するのに対し,本手法は動く物体によって遮られる現象を利用しているため違いはあるものの,引用や紹介なしに新規性を主張するのは適切でないと考えられる.すくなくてもホログラムファンを引用したうえで,提案手法との違いや長所を明確化したほうが良いと思われる.

- 提案手法は,ホログラムファンと異なり,LEDを埋め込んだ物体を用意しなくてもよいものの,960fpsのプロジェクタ(400万円)を利用しなければならないため,コスト面での課題が大きい.

- また,残像時間を上回る速度でかつ,手の指や棒など,視野内に対して,それなりに細い物体でないと適用できないことが予想される(例:新幹線の移動のように,たとえ速度が速くても,視野内でのさえぎられない領域が少ない場合は効果がないことも予想される).動く物体の大きさ(視野内での物体の割合)の違いは,絵の表示結果にも影響があると思われるため,この点も簡単にチェックしておきたい.この確認は,実用面に影響するのではと考えられる.

- アプリケーションに「人の往来」「キャラクタとのインタラクション」などを挙げているが,
残像時間を上回る速度の動きが前提であるため,本当に実現できるようなアプリケーションなのかは疑問がある.

- 式(1)の条件を満たすなら,各投影フレームの色はある程度自由であると推察されるものの,人間には「視認性が高い色」は存在するため,ある程度,分解する際の色の条件を設けることができる.参考程度にだが,色覚障害をもつユーザ向けの色分解の方法も存在する.以上から,どのような色の分解方法が適切かを調査したほうが良い.

改善コメント

- 採否理由にも記載をしたが,プロペラ式の3Dホログラムファンを紹介したうえで,本手法の長所を明確化したほうが良いと考えられる.ホログラムファン自体はそこそこ知られているシステムであることから,紹介しないと「新規性を述べるために,意図的に隠しているのでは?」との疑問がわきます.

- 現在提示結果は静止画に限定されているが,将来的には動画を表示する姿を見てみたい.本手法では「棒をユーザが降る状況」をデモとして紹介しているが,この状況は動画表示には不向きと考えられる(フレーム間のゆがみ).一方で,「規則的な動きを行うデバイスを用意する」場合,実質,ホログラムファンと同じようなシステムとなるため,本システムの長所がなくなってしまう.

査読者2

総合点   (1: 強く不採録~6: 強く採録)

5: 採録

確信度   (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2: やや専門からは外れる

採否理由

提案は技術的にも,映像提示手法の応用も含めておもしろいです.ぜひ実物をみてみたいと思いましたし,簡便に実装できるのであれば私自身も実装してみたいと思いました.しかし,論文の記述には不足している部分があります.

・提案されている内容の新規性(先行研究との差分が十分にあるか)
高速プロジェクタを用いて,物体などによる遮蔽時の残像効果を用いて,プロジェクタ映像に対して特殊な視覚を提示するもので,従来の高速プロジェクタおよび高速カメラなどを用いたプロジェクションとは異なり,新奇であると言えます.

・有用性(実際に役に立つか),正確性(技術的に正しいか)
残像効果は人間の視覚特徴を利用しているものと考えられますが,この記述がなく,どのようなメカニズムで残像が生じているのか,狙った残像を出すためにはどのようなパラメータがあり,それを実現するためにはどのようなハードウェア要求があるのかの記述がないため,技術論文としては正確性が必ずしも担保されているとは言えません([15]などで断片的に書かれている).また,実験において,黒色棒を用いた運動条件がありますが,この運動の詳細が不明です.どのような角速度ないし並進速度を持って黒色棒を動かしているのでしょうか.運動の速度は残像の生起に関わる重要なパラメータだと思います.この点でも正確性が担保されていません.これらは議論で制約と書かれている部分にも関係すると思いますが,ちゃんと書いていないので議論が成立しません.

・論文自体の記述の質(分かりやすく明確に書かれているか)
平易な文章で書かれており,読みやすいです.アプリケーション例の環境光への埋め込みという部分は読む人に想像力を要求するので,もうすこし補足説明がほしいです.よくわかりませんでした.

改善コメント

パラメータなどの技術論文として必要な部分については記述を加えていただければと思います。発表では口頭発表においてもデモをいただくと聴衆の理解が深まるかと思います。

査読者3

総合点   (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4: どちらかと言えば採録

確信度   (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2: やや専門からは外れる

採否理由

### 総合点の根拠

1. 新規性の評価: 3
論文「高速投影による運動物体の残像色制御手法」は、高速投影技術と残像効果を組み合わせて、動く物体に意図的な色の残像を提示する新しい手法を提案している。従来の投影技術では、物体の動きに合わせた色の残像を精確に制御することは難しかったが、本手法ではトラッキング装置を使用せず、高速投影技術を駆使することで、残像に対する色制御が可能となっている。このアプローチは既存の研究との差別化が図られており、キーアイディアの新規性は高い。一方で、本論文独自の貢献は限定されている。視覚的原理に関する説明や応用事例は貢献にはカウントされないと思う。残像効果を利用した他の手法との直接的な比較が不足している点、特に本研究の元となっている論文[11]との差分は少ないように見受けられた。従来技術やベースとなった手法との差分がもう少し明確に述べられるとより良い。

2. 有用性: 4
提案手法は、トラッキング装置を使わずに動体に対する残像色を制御できるという点で、非常に有用である。特に、エンターテインメントや公共空間での応用が期待されており、商業利用の可能性が広がっている。また、特定の産業応用においても、人の動きに基づいた視覚的フィードバックの提供が可能であり、インタラクティブな展示や広告、スマートインタフェースなど、広範な分野での応用が想定される。

3. 正確性:4
実験結果から、提案手法は運動中の物体に対して意図した色の残像を制御することに成功しており、技術的には信頼性があることが示されている。特に、投影のタイミングや色制御において精度が高いとされているが、運動速度が速すぎる場合や、対象物が高周波のパターンを含む場合の制約に関して、もう少し詳細な分析が求められる。また、実験環境が特定の条件に限定されているため、他の環境や条件下での性能についても言及があるとさらに説得力が増す。

4. 論文自体の記述の質:4
論文の記述は全体的に明快であり、手法の技術的な詳細や実験結果の提示がわかりやすく整理されている。図や表も適切に活用されており、読者が提案手法の意図と成果を理解しやすい。ただし、制約や限界についての議論がやや不足しており、具体的な改善策についての言及があると、論文全体の説得力が増すと考えられる。

改善コメント

関連研究[11]の描画の制約はなぜ、どのように発生しているか、もう少し詳しい説明があると、本研究の価値が明確になると思います。現在貢献としている部分は適切ではないと思うので、より正確で具体的な記述にするとより説得力が増すと思います(例:複雑な形状の描画を可能にした、表現できる色調をx割増やした等)

査読者4

総合点   (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4: どちらかと言えば採録

確信度   (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2: やや専門からは外れる

採否理由

先行研究の制約を解消するためのアプローチは単純ながら面白く,一定の新規性があると思いました.論文としての記述の質は高く,先行研究との差分は明確に示されています.アプリケーションの議論も興味深かったです.

「固定視点,棒を振る」という実験方法で確認された結果が,(論文内で頻繁に言及されている)「歩行時」にどれほど適用できるのかは疑問に思いました(制約のところで明確に言及していただけると良いと思いました).

改善コメント

アプリケーション例の議論は興味深く,ぜひいずれかの実証を進めていただきたいと思いました.