本研究は,HMDの左右の眼にそれぞれ異なる1人称視点映像を提示して両眼視野闘争を生じさせ,それらの2視点の映像の見え方を特定の視点変更操作を用いることなく変化させることで,2つの異なるVR空間と並行してインタラクション可能にすることを目指したシステムを提案している.2視点の見え方をユーザの手の動きによって自然に切り替えられるインタラクション設計は面白く,新規性が高い.一方で,まだ限られた映像セットでの実装に留まっている点やフォーマルなユーザ評価が実施されていない点等,今後に向けた課題は残り,これらの点についてWISSでの議論が期待できる.以上の理由から,条件付き採録と判断された.
- フォーマルなユーザスタディの実施とその報告
- 本手法の適用範囲(どのような映像セットが本手法と相性が良いか)に関する議論の追加
6: 強く採録
2: やや専門からは外れる
提案手法は新規性があり面白いと思いました.アプリケーション例の議論も興味深く,ぜひ実現してほしいと思うものばかりでした.ユーザ評価は簡易的なものではありますが,初期検討の段階としては十分と考えます.
論文の記述の質としても高く,先行研究はよくサーベイされており,本研究との差分が明確であると考えます.
左右それぞれで提示する映像の種類やその組み合わせによっても,引き起こされる両眼視野闘争の度合いやそれに伴うユーザ体験はかなり変わってきそうですので,様々なコンテンツを試していただきたいと思いました.また,本研究では手のインタラクションによって各視点の見え方を切り替える方法をとっていますが,視線情報を用いることも考えられると思いました.
4: どちらかと言えば採録
1: 専門外である
■提案されている内容の新規性(先行研究との差分が十分にあるか)
HMDの両ディスプレイを独立で制御することにより両眼に異なる表示を行うことはこれまでに行われてきています。一方、本研究は両眼視野闘争に着目し、左右それぞれの眼に異なる2つの一人称視点を提示することにより、2つの環境を同時に体験できるようにしています。さらに2視点の制御のために、
ー 両眼に2視点が等しく表示されている状態では片方の手で片方の環境を操作できる
- いずれかの手を使って活発に操作を行うとその手側の視認性を高める
- 片目を瞑ると開けている方のみを両手操作できる、
という3モードから成るインタラクションデザインを提供しています。特にこのインタラクションデザインには新規性があります(うまくシンプルにデザインされているとも思いました)。
■有用性(実際に役に立つか),正確性(技術的に正しいか)
論文に試用の結果として述べられていることが事実であれば有用ですが、この詳細が不明でありまた非構造化インタビューを採用しているため、試用の結果に基づいて行われている考察の信頼性が低いです。手法自体は技術的に正しいと考えられます。
■論文自体の記述の質(分かりやすく明確に書かれているか)
やや説明不足になっている箇所はありますが、指摘すればカメラレディ提出までに修整することは可能なレベルです。記述は分かりやすいです。
■サマリー
考察の信頼性が低いというネガティブ要素はありますが、考案されているインタラクションデザインにはそれを上回る強い新規性があると考え、総合的にはポジティブよりです。
■採録の条件
条件1
2.3節「単眼立体視」にある「本研究ではこの結果を踏まえ,単眼立体視の現象を活かせるよう留意する.6DoF対応のHMDは,運動視差や可視フレーム排除による手がかりを提供できる.また,提示する視点について被写界深度を浅くする手がかりを加える.」という記述が以下の様に不明瞭ですので、改訂してください。
- サンプルアプリケーションでは「運動視差」をどのように提供したのでしょうか。
- 「可視フレーム排除」とは何でしょうか。またサンプルアプリケーションではこれをどのように提供したのでしょうか。
- 同様にサンプルアプリケーションではどのような「提示する視点について被写界深度を浅くする手がかり」を与えたのでしょうか。
条件2
Focus状態およびAttent状態に移行するためのトリガーである「集中している側の手を使って活発にインタラクションを行う」というのはどのようなアルゴリズムで検出しているのか、追記してください(現在では再現性不足)。
条件3
体験者の募集方法を記述してください(著者と研究室のメンバーなど、本研究を知っている人かそうでないかが気になっています)。
■提案されている内容の新規性(先行研究との差分が十分にあるか)
HMDの両ディスプレイを独立で制御することにより両眼に異なる表示を行うことはこれまでに行われてきています。一方、本研究は両眼視野闘争に着目し、左右それぞれの眼に異なる2つの一人称視点を提示することにより、2つの環境を同時に体験できるようにしています。さらに2視点の制御のために、
ー 両眼に2視点が等しく表示されている状態では片方の手で片方の環境を操作できる
- いずれかの手を使って活発に操作を行うとその手側の視認性を高める
- 片目を瞑ると開けている方のみを両手操作できる、
という3モードから成るインタラクションデザインを提供しています。特にこのインタラクションデザインには新規性があります(うまくシンプルにデザインされているとも思いました)。
■有用性(実際に役に立つか),正確性(技術的に正しいか)
論文に試用の結果として述べられていることが事実であれば有用ですが、この詳細が不明でありまた非構造化インタビューを採用しているため、試用の結果に基づいて行われている考察の信頼性が低いです。手法自体は技術的に正しいと考えられます。
■論文自体の記述の質(分かりやすく明確に書かれているか)
やや説明不足になっている箇所はありますが、指摘すればカメラレディ提出までに修整することは可能なレベルです。記述は分かりやすいです。
■サマリー
考察の信頼性が低いというネガティブ要素はありますが、考案されているインタラクションデザインにはそれを上回る強い新規性があると考え、総合評価はポジティブよりです。
■採録の条件
条件1
2.3節「単眼立体視」にある「本研究ではこの結果を踏まえ,単眼立体視の現象を活かせるよう留意する.6DoF対応のHMDは,運動視差や可視フレーム排除による手がかりを提供できる.また,提示する視点について被写界深度を浅くする手がかりを加える.」という記述が以下の様に不明瞭ですので、改訂してください。
- サンプルアプリケーションでは「運動視差」をどのように提供したのでしょうか。
- 「可視フレーム排除」とは何でしょうか。またサンプルアプリケーションではこれをどのように提供したのでしょうか。
- 同様にサンプルアプリケーションではどのような「提示する視点について被写界深度を浅くする手がかり」を与えたのでしょうか。
条件2
Focus状態およびAttent状態に移行するためのトリガーである「集中している側の手を使って活発にインタラクションを行う」というのはどのようなアルゴリズムで検出しているのか、追記してください(現在では再現性不足)。
条件3
体験者の募集方法を記述してください(著者と研究室のメンバーなど、本研究を知っている人かそうでないかが気になっています)。
4: どちらかと言えば採録
2: やや専門からは外れる
右目と左目でそれぞれ異なる映像を提示すること自体は面白いかもしれないが、提示可能な映像はかなり限定的ではないかと予想される。以下に気になったことを記載する。
-「ドラムをたたく体験」と「周囲を歩き回る人型キャラクタを観測する」アプリケーションを用意したとあるが、これは「どちらもユーザはその場から動かない」「手前がドラム、奥側が人が歩くように融合する」ため、脳内での映像の分離が容易である。例えば、右目と左目で似たような映像(注目する領域が近いもの)の場合、分離ができなくなることが予想される(例:異なる本を同時に読んでいるような場合)。
なので、少なくても上記の映像セットを選んだ理由及び、ほかのシーンでの実験も行ったほうが良いと考えられる。更に、片方は移動する体験、もう片方は静止状態で体験する映像を提示した場合、どのような結果になるのかなども重要な話かと思います。
このような多数のシーンに適用した結果がなければ、「どのような状況に役立ちそうか」が判断しづらいです。
- それぞれの映像に対するインタラクションですが、片方にフォーカスを置いたblindの場合、片目を瞑るのでユーザは奥行を知覚しづらくなります。一方で、右手と左手のインタラクションの活発度で優先順位を決めるインタラクションも使いづらい印象があります。例えば、ユーザの利き手による影響で、利き手の反対側の手でのインタラクションを好まないケースもあります。なので、ジェスチャー操作によって、インタラクション可能な映像を選択する機能があったほうが良いと思いました。その場合、比較実験は必要になります。
- ユーザテストが非常に簡易的なもので、優位性を検証できるほどのものではない。イントロで従来方法をいくつか述べているので、これらとの比較は必要である。また、謝礼などを用意したのかは気になりました。
上記にも記載していますが、ほかの映像を用意し、どのような映像なら融合しやすい or しにくいかを定性的でよいので発表してもらったほうが説得力が上がると思います。
5: 採録
2: やや専門からは外れる
HMDの左右のディスプレイに対して独立した視点の映像を提示し、特別な視点変更操作を用いることなく両眼視野闘争を起こす2つの異なる視点の映像の見え方を変化させ、2つの異なるVR空間下での独立した体験を並行して可能にすることを目指したシステムであると認識しました。
「両眼視野闘争」に着目した視点切り替えについての分析と、4つの具体的な提示状態が提案されており、またそれらを特別な視点変更操作を必要とせず切り替え可能である点については新規性があると思います。
提案手法で切り替え可能な視界は2種類に限られますが、左視界に対しては左手、右視界に対しては右手で操作可能であることはユーザにとってわかりやすそうで面白い思います。
またシステム側にとっても、注目している視野がどちら側であるかを判定する手法として手の動きを見るというのはローコストで面白いと思いました。
提案されている3つのアプリケーションについては、他の手法でも代用可能な印象を受けましたが、論文でも述べられているように、低認知負荷時の閲覧手法としての実用可能性はあると思いました。
論文全体もわかりやすく記述されていると思います。
以上の観点から、採録に値する論文であると評価しました。
異なる視点の映像を各映像の透明度を制御して複数重ねて提示する手法(オーバーレイ)については、両眼視野闘争を用いた提示手法との違いについて、もう少し詳細に説明があると良いと思いました。
左右の手の動きに応じて明度・コントラスト・音を変化させる手法について、具体的にどのようにこれを(無段階に)制御しているのか、具体的なアルゴリズムについての説明があると良いと思います。
アプリケーションについては、現在提案されているアプリのみでは他の手法でもできるため物足りなさを感じました。もっと具体的で両眼視野闘争の特徴が活かせるアプリがあると良いと思いました。
ロコモーションが必要となる作業は個別のVR体験においてはよくあるので、左右独立した環境でそれを行う場合の切り替えについては、論文中でも触れられていますが、今後の検証が必須だと思います。
また両眼視野闘争状態での長時間使用時の疲れなどについても、実用性を考えるうえで非常に重要だと思われるため、例えばオーバーレイを用いた提示手法等との比較なども含め今後の調査を期待します。
4名の査読者によるコメントをまとめると,以下のとおりです.
肯定的な意見:
- インタラクションデザインに新規性がある(特定の視点変更操作を必要とせずに切り替え可能である点)
- アプリケーションの実用可能性はある
- 論文の記述の質は概ね高い
否定的な意見:
- 限られた種類の映像セットでのみ実装されており,適用範囲が不明
- 具体的なアルゴリズムが説明不足
- ユーザ評価の信頼性が低い(非構造化インタビューである,参加者の属性が不明)
総じて,査読者全員がポジティブなスコアを付けており,特にインタラクション設計の新規性については多くの査読者が高く評価しています.一方で,否定的な意見も上記のように複数挙がっており,これらは(シェパーディングでの)論文修正によりある程度改善可能であると考えられるため,条件付き採録といたしました.以下は採録のための条件です.
1. 左右の手の動きに応じて明度・コントラスト・音を変化させる手法について,具体的なアルゴリズムの説明を追加してください.
2. 「試用と体験」の参加者の募集方法や謝金の有無を追記してください.
3. 査読者2の条件1に挙げられている,論文内の不明瞭な箇所を改善してください.