メガネの鼻あて部へ圧力センサを装着することで,耳ぴく動作,歩行,瞬き,脈拍等の複数の動作を高精度で認識できる手法を提案している.シンプルなセンサ構成で複数の動作を高精度で認識できている点は,全ての査読者が評価した.一方で,様々な動きを取れるいうことはノイズにも敏感だと考えられる点,耳ぴく動作自体の使いやすさ,学習コストが不明瞭な点などが指摘されたが,WISSにおいて議論する価値がある論文と考え,条件付採録と判断された.
条件で提示したように,ノイズに対する影響への工夫,耳ぴく入力の使いやすさや学習コストの評価がまず必要だと考えられます.
また,査読者の指摘にあるように,色々な信号が取れる汎用性に焦点を当てるより,あえて耳ピクが歩行の有無・瞬きの有無に関わらず取れるような,一点集中の研究にするという方向性も考えられます.
4: どちらかと言えば採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
本論文では,メガネの鼻あて部分に搭載された圧力センサを用いて耳ぴく,瞬き,歩行を検出する手法を提案しています.メガネの鼻あてへの圧力センサのみというシンプルなセンサ構成で複数のユーザ状況を取得できる点は,有用性が高いと考えます.
一方で,著者らも記述する通り,耳ぴく動作ができる人自体が少なく,一般的に利用可能なのか疑問が残ります.どの程度の訓練が必要になるのか,議論の追加が可能なら追加されると良いと思います.
また,脈拍が他のジェスチャと競合しないのかが気になりました.例えば図9aでは脈拍によって圧力センサ値が20程度変化していますが,図12ではそのような変化があるようには見えませんでした.脈拍は特定の状況(静止時に圧力センサを押し付けるなど)にのみ観測される特徴なのでしょうか.
以上を総合的に考慮し,総合点を4とさせていただきました.
- 耳ぴくができない人が,どの程度のトレーニングでこのシステムが利用できるようになるかも評価されるとより良いかと思います.
- 歩行時にはノイズが大きく,脈拍や耳ぴくが取れるのかは挑戦的なところかと思います.そのあたりも評価されるとより良いのではないかと思いました.
3: どちらかと言えば不採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
概要:
眼鏡の鼻あてに圧力センサを搭載することで,「耳ぴく」動作を検出する手法を提案し,基礎的な精度評価を行っている.
判定の根拠:
ウェアラブルデバイスを用いた「耳ぴく」の検出は従来も行われていますが,シンプルな検出方式を持ち,瞬き・歩行・脈拍等の検出にも利用できる点など,一定の新規性があると思います.また,基礎的な性能評価が行われており,(限定的な環境ですが)性能が出ています.論文は明瞭に書かれており,提案内容は理解しやすいです.
このように良い点のある研究ですが,以下のように大きな課題が2つ(&細かな修正すべき箇所)があります.これらの課題は研究の本質的な問題であるのに対して,論文中でほとんど議論されていません.こうした点を総合的に考えて,評価は3(どちらかといえば不採録)としました.採択とする場合は,(対策までは求めませんが)少なくともこの2点が課題であることは論文中に追記するべきだと思います.
1. 検出動作の分離の問題
本論文では,「耳ぴく」動作に加えて,「瞬き,歩行,脈拍等」も計測できる,ということが完全にポジティブな文脈で書かれていますが,これは逆に言うと「いろいろなノイズの影響を受ける」ということであり,日常生活環境で利用しようとすると大幅に検出精度が下がる可能性があります.
現在の性能評価では,一度に一つの動作しか発生しない理想的な条件のみで行われており,比較的高い精度が出たと報告されていますが,日常生活環境では「歩行中」に「耳ぴく」するといった動作が発生します.(著者自身も7章で「ウォーキング中の耳ぴくによる音楽再生」等の例を上げています)
こうした現実的な状況で提案手法がどの程度動作するのか,本論文からは予測が困難です.
この点は提案手法の本質的な課題であり,「8議論」等で必ず回収して欲しい(少なくとも制約として言及するべき)部分だと思います.
※これに関連して,図5,6,7では「耳ピク」「瞬き」「歩行」の動作を0-1の範囲で正規化した結果のみを示していますが,正規化しない方が分離できる可能性については議論しやすいのではないかと思いました.
2. 耳ぴく入力の使いやすさが不明瞭.
本論文では,「1章: 耳ぴく動作は10-20%の人が可能で,訓練で習得できる」「2.1節:日常で未利用である」点については言及されていますが,「耳ぴく入力ができる人にとっての,耳ぴく動作の使いやすさ」について全く議論がありません.例えば,耳ぴく入力がどれくらい手軽にできるのか,また無意識に発生しないのかという点は,瞬きやSilenctVoice等を用いた入力技術と比較する際に重要な点だと思います.
耳ぴく動作ができる人は少数であるため,この点の議論がないと,わざわざ耳ぴく入力を学んでまで利用する価値があるのかの判断が難しいです.著者は耳ぴくができるのだと思いますので,定性的でも耳ぴく動作の使いやすさ(と使いにくさ)について,議論等で言及するべきだと思います.
※これに関連して,2.1章では「提案手法は日常で利用される声,視線,頭の動き,舌を使用するのではなく,日常で未利用である耳ぴくを用いることで日常動作を阻害することなく,デバイス入力が可能である.」という記述がありますが,未利用であるから日常動作を阻害しないというのは理由として妥当性に欠けると思います.耳ぴく動作が(既にできる人にとって)手軽に行えるのか/他の動作と一緒に行えるのかといった議論が必要だと思います.
論文を改善するための細かい問題点をまとめます.
- 概要やアプリケーションをはじめとして,句読点が「,.」になっている箇所が散見されます.一括変換して修正してください.
- 1章 「そのため,今後スマートグラスがスマートウォッチのような普及を目指すには,健康管理機能の搭載が必要だと考えられる.」
→やや論理展開が強引だと思います.スマートウォッチの得意とすることがスマートグラスでもできたからと言って,スマートグラスの普及率が上がるのかは疑問を感じました.(同じ用途ならスマートウォッチでよいのでは?)
- 2.1: ゴリラ腕問題
→本文か脚注で簡単に補足があるとよいと思います.
- 8.1: 「片側ずつのジェスチャは値の差が重要であることから4 章の正規化法の(2) を左と右のセンサ応答の最大値と100 の3 つでもっと大きいもので全ての値に対して除算した.」
→何故,値の差が重要なのかよくわかりませんでした.また,「もっと大きいもの」の意味も分かりません.(最も大きいの誤字?)
- 8.1: 「各動作15 分用意」
→15分というのは時間ですか?それとも事前に切り出した「15個分」の誤字でしょうか?
5: 採録
2: やや専門からは外れる
スマートグラスの鼻あて部分に圧力センサを設置することで,耳を動かす動作 (耳ぴく) を用いた入力手法および,瞬き・歩行・脈拍の計測手法を提案しています.
複数の先行事例と比較した上で新規性がわかりやすく記されており,技術的に正しく設計・実装されています.実験ではSVMを用いてユーザごとの分類器と汎用分類器を作成し、それぞれF1スコアが平均98.3%、92.4%と高精度での識別が可能であり,有用性も高いと考えます.記述の質としては,ややわかりにくい表現やフォーマットミスなどが散見されましたが,わかりやすい構成で読みやすかったです.
少し気になるところは,実験協力者が著者含む3名とやや少ないように感じる点と,瞬き検出に関するアプリケーションがきちんと実装されているか不明瞭な点です.ただし,現在の内容でもワークショップ論文としては十分であると感じたため,採録と判断しました.
- 7章3段落目の瞬き検出のアプリケーションシステムを作成した.とありますが,写真がなく本当に作れているのかわからないので,ページに余裕があるようでしたら写真など足してもいいかもしれません
- フォーマットミス:全体的にピリオドカンマ・句読点がごちゃ混ぜになっているので,どちらかに統一してください/図表のキャプションのフォントが違うので,テンプレート記載のフォントにしてください
- その他,文章表現に関して:2.2「また,著者らは〜」→「また,著者らは過去に〜」の方がわかりやすいかと思います/3章2段落目「これ を解消するために鼻との密着度を向上させ,より正 確に圧力計測を行うために,」/6章末尾「応答波形の振幅は接触位置が血管 からずれ,接触具合に大きく左右される」/7章「入力にキーボード操作やマウス操作を割り当て られるプログラムを作成した」の意味があまりよくわかりませんでした./8.1「4 章の正規化法の (2) を左と 右のセンサ応答の最大値と 100 の 3 つでもっと大きいもので全ての値に対して除算した」「別のデータを各動作 15 分用意」
4: どちらかと言えば採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
・提案されている内容の新規性(先行研究との差分が十分にあるか)
メガネの鼻あてに圧力センサをつけるだけで,耳ピクなど,ウェアラブル入力インタフェースとして使える点に新規性がある.
・有用性(実際に役に立つか),正確性(技術的に正しいか)
メガネに圧力センサをつけるだけで,歩行・瞬き・脈拍をそれぞれ単体で検知できて,ウェアラブルのヘルスケア用途として利用できる可能性を示している.しかし,歩行中の瞬き・脈拍が検知できるかどうかの議論がなく,実際は,いずれか(歩行)の信号変化が大きく,他のアクションによる信号変化が埋もれるなど,日常用途としての利用ができるかが不明瞭..
RC LPFの設計で,フィルタの入力インピーダンス(>kΩ)が大きいため,理論値通りのカットオフ周波数(15 kHz)になっていないので,フィルタ手前にボルテージフォロワー回路を挟む,アクティブLPFを実装するなどした方がいい.
右ウィンクと両目瞬きの検出率がほぼ同じ理由を記載して欲しい.信号変化がほぼ同じなため,あるいは測定の不安定さに由来するものなのかが気になる.
・論文自体の記述の質(分かりやすく明確に書かれているか)
プロトタイプの実装方法,評価方法について明確に書かれており,十分に再現できるほど記述されている.
色々な信号が取れる汎用性に焦点を当てるより,あえて耳ピクが歩行の有無・瞬きの有無に関わらず取れるような,一点集中の研究にした方が良い。特に、今後CHIなどに通す上で,魅力的なアプリの提案,何を評価すべきか,ユニークな信号処理・ハードウェアの工夫が明確になる.
メガネの鼻あて部への圧力センサというシンプルなセンサ構成で,耳ぴく動作,歩行,脈拍等の複数の動作を高精度で認識できている点は全ての査読者から評価されています.
一方で,ノイズが大きく影響する手法であると考えられますが,その点については議論されていません.
総合的に見て,WISSにおいて議論する価値のある内容だと考えますが,追記・修正いただいた方が良い点がありますので,条件付採録と判定しました.
条件は以下3つになります.
1. 歩行などの他の動作時に耳ぴくや脈拍がどのような影響を受けるのか,提案手法のノイズに対する制限や議論を追加してください.
2. 耳ぴく入力自体の使いやすさ(使いにくさ)について,定性的で良いので議論に追記してください.
3. その他,各査読者の指摘する改善コメントについて,論文の記述に関するものに対応してください.