ゲームが持つプレイヤーを引き込む特性を利用して,ゲームプレイ中に目が開いているタイミングをカメラ画像から検出し,点眼するシステムを実装している.このシステムを用いてゲーム内の状況と連動して「罰」「報酬」「妨害」の3つの異なるタイミングで噴射するゲームを実装し評価実験を行っている.実験の結果,一部有意な差が検出されており,WISSにおいて議論するに値する可能性があると考え条件付き採録と判定した.
WISSでの口頭発表においては,採録条件として記載した点を記述いただくことで登壇いただき議論するに値すると考えます.論文誌の場合には,点眼が苦手な人に向けて継続的に利用してもらえることを念頭に適切な対象者を想定して実験を行い,実現に向けた改善なども含めたより深い議論をしていただき,有用性や信頼性を高めていただければと思います.
4: どちらかと言えば採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
・ゲームを利用して点眼行為を支援する方法論は筆者らの独自性のある研究であり,筆者らの先行研究と比較し,ゲームならではの点眼発動条件,主体性などを与えており,新規性が認められる
・報酬としての点眼が他と比較して快の印象を与え,かつ意識しにくい点は興味深い発見である.また,罰としての点眼であっても,ゲームとして理解してプレイすることで不快ではあるものの楽しいと回答している点も興味深い
採録の条件:
3.2のハードウェアの説明で,「ポンプ起動から目薬が点眼されるまでの平均時間は1.8秒であった.」とあるが,これはゲーム側が今点眼すべきと判断した時点から1.8秒後に点眼が行われるということでしょうか?
1.8秒はかなり時間としては長く思いますが,罰と報酬としての点眼として,主体感を失うような致命的な遅れにならなかったかが気になりますので説明するようにしてください..
・3.4の開眼の推定に関する記述は,遅延などの理由から実際のところ研究でも使用していないため,記載は不要と考えます.もし乗せる場合は将来の展望の中で,罰や報酬,妨害として点眼する際に確実に行うための機能としての実装についても説明しつつ,遅延が課題である点も論じるといいのではと思います.
・この実験においての点眼の成否については言及はありませんが,すべての点眼は正しく眼中に届いたのかが不明でした.成否によって評価が異なると思いますので,その点を論じるか,もし,点眼の成否が影響を及ぼさない場合は,そのことを説明するようにしてください.
・上記にも書きましたが,この実験においての点眼の成否については言及はありませんが,すべての点眼は正しく眼中に届いたのかが気になりました.この実験の目的からすると,点眼の成否は重要ではないため,あらかじめ絶対に点眼が成立しないようにアクリル板等で保護するなどしたうえで,点眼行為は発生するが,物理的には目や顔にはに点眼液の影響を与えないように統一するなどするといいのではと思います.
3: どちらかと言えば不採録
2: やや専門からは外れる
目薬を自動で連動可能なシステムを用いて,ゲームと連動させることで,
ユーザに対する点眼の心理的な負荷や楽しさについて調査した論文であると認識しました.
ゲームを行いながら点眼させることで心理的負荷の軽減や点眼のエンタテインメント化を目指す本研究は新規性があると思います.また実験についてもゲームと連動した点眼の可能性を示すものだと思います.
一方で,実験に使われている自動点眼システムの実装についての記述がかなり大雑把である印象をうけました.特にどのように点眼を行っているかについては,図2の射出向から左右独立して点眼液が噴射されていることはわかるのですが,噴射口の形状やどの程度の強さ・範囲で噴射しているのか等が論文中の記述からはわからないため,特に点眼の精度(目の中への命中率)がどのくらいであるのかは判断できませんでした(ビデオからは、かなり広範囲に噴射されているように見えます).
実装されたシステムでは市販の点眼システムを使っているのでしょうか,それとも点眼機構部分も自作されたのでしょうか?
システムを用いた評価についても,目の中に正確に点眼されている場合と,例えば目の周り,また顔全体にも広く噴射されている場合とではユーザに与える心理的な影響は大きく異なると思いますので,実験結果にも影響があるように懸念します.
・先の述べたとおり,点眼の仕組みや精度について,具体的な記述の追加が必要だと思います。
また一般的な目薬の点眼といえば、ある程度目の中に目薬を落とすイメージがあるなか、著者が想定する点眼とはどのようなものなのかを論文中に含める必要も感じました。
・図1の左上の画像が小さいため,拡大する必要があると思います。
5: 採録
1: 専門外である
点眼の心理的障壁を下げるために,ゲームとの融合を試している論文です.点眼の条件をいくつか用意し,比較検討を行っています.
新規性:
点眼に着目し,それをゲームと組み合わせている提案手法は新規性があると思います.また,WISSで議論が盛り上がりそうな面白いシステムのように思われます.自身の先行論文についても適切にリファーしており,その差分(対象がインタラクティブなメディアかそうでないか)も十分あるように感じます.
有用性:
WISSでは必須ではありませんが,評価実験を行い,点眼とゲームの組み合わせ方について評価を行っています.ここで得られる知見は後の点眼×ゲームの設計に大いに役立ちそうな知見が書かれているように思われます.
質:
全体的に記述の質は高く感じます.関連研究では適切に提案手法の位置づけを説明できています.提案手法の構成についても適切な文章量で説明されています.
以降,重箱の隅をつつくような話ですが,4.2の3段落目において,「実験条件を統制するため」と書かれていますが,これはどの条件を統制?統一したのか具体的に明記したほうが良い気がします.
また,ところどころ言葉選びについて若干の改善点があるように思われます.例えば,4.1の仮説の記載で「ゲームをしながら点眼を行なうことで」と書かれていますが,ここは「ゲーム中の点眼で」などと言い換えることでより読みやすくなる気がします.また,図5~7について,リッカート尺度のどっちがどっちなのか分かりづらかったので,図のなかにもどちらが快なのか,軸の情報を書くとより親切かなと感じました.
以上の理由から上記のような総合点としました.
3.2にて「ポンプ起動から目薬が点眼されるまでの平均時間は1.8秒であった」とありますが,この1.8秒のゲームデザインに対する影響の考察などがあると良いように思いました.
3: どちらかと言えば不採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
点眼が苦手な人のためのゲーミフィケーションにおいて,点眼のきっかけを「罰」「報酬」「妨害」の3つに分けて考えて評価する,という方針は面白く,評価方法等も問題ないと査読者は感じました.
一方で,そもそも実験被験者の属性がターゲットとあっているのかどうかが気になりました.被験者は点眼が苦手なユーザだったのでしょうか?点眼が苦手,といったときに,そもそも点眼が怖かったり目に入るのがいや,という嫌悪的な苦手さと,うまく目に入らない,といった技術的な苦手さの2種類に大きく分かれると思います.前者の場合,報酬だろうが妨害だろうが,とにかくいやなのではないでしょうか.後者の場合,噴射型の点眼という点ですでに目的は達成されていそうなので,そこから楽しかったかどうか,に関しては調べる意味があまりないように思います.なので,苦手な人で実験した場合,結果が大きく異なり,考察も結論もまるきり違う物になる可能性が高いのではないかと査読者は思いました.また,そもそも苦手じゃない人達は,点眼すべきときにすればいいので,それをゲーミフィケーションによって楽しくするのは,本研究の目的とはずれているように思います.
このシステムは,目薬が苦手な人が使うものだとすると,定常的に使い続けるようなことが想定されると思いますが,おそらくしばらく使っていると点眼タイミングも予測可能になるので,手法による違いは出ず,結局どれを使っても変わらないというところに収束しそうに思います.初期印象が大事な利用シナリオを提示されていればわかりますが,提案システムにおいて大事なのは,継続利用してもらえるか,というところだと思いますので,そういう意味でも評価実験に問題があるかなと思いました.仮に評価実験のことをまったく無視してこの論文を評価した場合,やはり,点眼に嫌悪感を持っている人に対して「罰」「報酬」「妨害」の分類はあまり意味をもたないように思います.「ボタンを自分で押すなど能動的」「ランダムで受動的」「イベント駆動」といったような区別でデザインしたり,「点眼に気づいている」「できるだけ気づかせない」といった区別をする方がストレートなデザインかなと個人的には思いました.
少なくとも,今の被験者に対し,どの程度点眼が苦手か,どういう理由で苦手か,といったところは聞いておいた方が良いと思います.苦手群と非苦手群を比べるとかするだけでも価値があると思いますので.
あと,ビデオを見させてもらうと,点眼動作はかなり怖く,ユーザもビックリしているように見えました.むしろこの噴霧システムはかなり苦手感を助長してしまうようにも思ったので,何か予備的な動作をするなど,噴霧がこれから行われることをユーザに知らせながら恐怖感をやわらげるような工夫があればよいのにと思いました.
機械学習関連の記述において,テストデータとありますが,テストデータがどう用意されたのかが書かれていません.テストデータは用意せず,クロスバリデーションしたのでしょうか.
ゲームが持つプレイヤーを引き込む特性を利用して,ゲームプレイ中に目が開いているタイミングをカメラ画像から検出し,点眼するシステムを実装している.このシステムを用いてゲーム内の状況と連動して「罰」「報酬」「妨害」の3つの異なるタイミングで噴射するゲームを実装し評価実験を行っている.実験の結果,一部有意な差が検出されており,WISSにおいて議論するに値する可能性があると考え,下記を条件に条件付き採録と判定した.
採録条件
(1)点眼システムについて,噴射口の形状やどの程度の強さや範囲で噴射されるかを記載してください.また,実際に点眼の精度(実験の際の命中率)について言及してください.
(2)実験参加者が点眼が苦手(点眼そのものが苦手<点眼に対する苦手>または正しく点眼できない<技術不足>)かどうかにより評価結果の意味が大きく変わるものと考えられます.実験参加者に点眼に対して苦手意識があったかどうかを追加で確認するかLimitationとして言及し,4章の評価実験や5章の考察で記述してください.
(3)本研究は点眼が苦手な人に向けたシステムであるため,5章の考察で,(2)の内容を組み入れ,苦手な人の分析を加えたり,苦手な人向けのデザインについて議論してください.