磁性流体にオイルを混合することで,スパイク現象に加え,なだらかな半球や余韻などの表現を実現している.有用性が不明瞭であるという指摘もあったが,新規システムが正確に実装されており,有用性についてはWISS参加者間で議論されるべきだという判定となった.ただし,提案手法の目的(課題感や目指すところ)が不明瞭となっている点は改善されるべきと考える.以上の理由から,採録(条件付き採録)と判断された.
採否理由およびコメントの通り
3: どちらかと言えば不採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
磁性流体にオイルを混合することで,スパイク現象に加え,なだらかな半球や余韻のような表現をする手法の研究です.
オイルと磁性流体を用いて滑らかな表面を形成するアート作品はすでにあるようですが*,半球形状とスパイク形状を組み合わせた表現には新規性が認められるかと思いました.ただ,現行の論文では,どのような課題を感じて本手法を提案したのかという,課題感を読み取るのが難しかったです.これにより,本手法が提案されることで何が嬉しいのかがあまりはっきりとは伝わってこず,有用性の判断も難しかったです.
実装については正確に行われていると思いますが,「システムを生活空間で長期的に利用 するために,構成をシンプル」にするという点については、電磁石アレイを使用していることから、シンプルとは言い難い印象を受けました。また、安全性の問題も指摘されている通り、生活空間で長期使用するにはコストや保守の面で課題があるように思います。
記述の質に関しては、説明が後回しになっており,意図が分かりにくい箇所がいくつか見られました。
また,本論文は著者らの発表済み論文である[15]とほぼ同内容であるのが気になりました.[15]は査読なし発表とは思いますが,同じ口頭発表トラックの論文として新しい内容を提供していないことが気になりました.
以上より、基本的には「どちらかと言えば不採録」と判断しました。ただし、例えば「既存の磁性流体アートやCoworoなどに存在するXXという問題を解決し、YYという状態を目指す」という形で、課題と解決策が明確になるような論文にしていただければ、「どちらかと言えば採録」としても良いかと思います
*https://www.sachikokodama.com/works/%e3%83%aa%e3%83%9c%e3%83%bc%e3%83%a0/
- 構成について:1章が情報不足に感じます.「既存の磁性流体アートにどのような問題があったのか」または「3段落目のような提案によりどのような新しいことが実現するのか」がないと,読者にとって本研究の目指すところが曖昧となってしまうと思います.関連して,2.1末尾にアンビエントディスプレイとしての活用を目指すとありますが,この情報は1章にも必要だと思います./6章末尾で「B の混合液(オイ ル 10%)のバランスが良いと考えたため,応用例等 で利用した.」とありますが,それなら6章を応用例より前に持ってきた方が読者が内容を追いやすいかと思います
- その他説明不足な箇所:概要「そこで本研究では,磁性流体に オイルを混合させることで,棘のようなテクスチャを抑制し,なだらかな半球や余韻を表現する」→これだと本研究ではスパイク形状を一切使わないように読み取れます/5.1.2「より強い 磁力 (PWM 値: 100%) を印加することで,初期の 状態からスパイクに遷移」→これは水はねではないんですか?/5.2.2「卓上デバイス」が初出単語です.適切に説明してください
- 文章表現:5.2.1「会話の可視化」→「会話量の可視化」?/5.2.2「植物の可視化」→「土壌の水分量の可視化」?
- フォーマットミス:図表のキャプションのフォントが違うので,テンプレート記載のフォントにしてください
4: どちらかと言えば採録
2: やや専門からは外れる
本論文は磁性流体を使ったディスプレイを提案している.
本研究は国内会議インタラクション2024で既発表であるが,表現事例や性能評価に関する追記があるため,新規性は保たれている.
十分な性能評価がされており,技術的正確さが示されている.
ただし,本ディスプレイの有用性については十分議論されていない.例えば,本ディスプレイで表示を行うことで有利になる情報,適さない情報等の議論が望まれる.
以上の理由から本論文の評価は4とする.
本ディスプレイで表示を行うことで有利になる情報,適さない情報等の議論を増やすことで,本ディスプレイの有用性をアピールしてください.
4: どちらかと言えば採録
1: 専門外である
アンビエントな情報提示手法であるRippleSpikeを提案しています.磁性流体をより制御しやすくするためにオイルを添加する工夫を行っています.
液体ディスプレイに着目した点はとてもおもしろいと思います.
有用性・正確性:
アンビエントディスプレイにおいて,磁性流体を用いる理由,そして提案手法の目的の記述が乏しいため,提案手法が適切であるか,有用性があるかを判断することができませんでした.
また,磁性流体DS-50と市販のベビーオイルを混合することで様々な粘度の違う磁性流体を制作しています.
しかし,それぞれの粘度についての記載がなく,市販のベビーオイルの型番などがないため,再現性が低く感じました.
市販の添加物の入ったベビーオイルではなく,動粘度の記載のある純粋なシリコンオイルを使用すべきではないでしょうか.
DS-50ではなく,シリコンオイルと四三酸化鉄の混合物としなかった理由も気になります.
質:
概ねきれいに推敲されていると感じます.ただ,若干エビデンスが乏しい記述も見られます.
例えば,1章や概要にかかれている「液体ディスプレイには周辺環境への親和性が高い」と書かれていますが,具体的に何がどうして高いのかを読み取ることができませんでした.
有害性により触ることのできない磁性流体が「周辺環境への親和性が高い」とは思えず,この記述については疑問を感じました.
結論:
提案手法の有用性や正確性が不明瞭ですが,着目点は面白いと思いましたので,このような評価としました.
やはりなぜ液体ディスプレイでないとだめなのか,磁性流体でないとだめなのか,をより深く議論し,それを納得させるようなユースケースを提示すると良い論文になると思います.
また,現状は1つの磁石のオンオフをPWMでいじることの知見しか書かれていないように感じます.隣り合う磁石の影響などを調べたり,プロトタイプ大中小の挙動の違いについてなど書くと知見が広がるように感じます.
4: どちらかと言えば採録
2: やや専門からは外れる
本論文では、磁性流体を用いてスパイク表現と波紋表現を組み合わせた情報提示が可能なディスプレイを提案し、実際にデバイスを試作してその技術的な評価結果や、応用例を示しています。磁性流体にオイルを混合することでなだらかな半球表現を可能とし、電磁石アレイや制御回路を開発して広範囲に情報提示可能、かつ生活空間での利用を指向したディスプレイを実現しています。
- 新規性について
磁性流体を用いた表現には多数先行研究があるものの、それらはスパイク表現が中心となっており、オイルを混合することで異なる表現を実現したことには新規性があるように思われます。また、他の液体を用いた表現の先行例についても、スパイク様の形状となだらかな球状の双方を実現するものは無く、一定の新規性が認められます。
- 有用性,正確性について
なだらかな半球や余韻の表現については、スパイクとは視覚的に大きく異なる表現である点、論文に記述されているオイルの定性的な特性についても混合の対象として適切なものと考えられる点で、有用性を持ち、技術的に正確な選定が実施されていると感じられます。ただし現状は応用例の提示にとどまっているので直観的にしか新たな表現の有用性を判断できず、また、混合の検討対象についても特定のオイルのみにとどまっています。今後詳細な評価や、今回用いたオイル以外の選択肢についての検討が望まれます。
- 論文の記述の質について
全体としてよく構成されていますが、「5. 表現事例と応用例」のあとに「6. 性能評価」が配置される構成に少々違和感を持ちました。先に性能評価で示されているような技術的な実験評価結果と混合液の最適化の議論があり、その後に応用例が示される方が一般的、かつ6章の最後にある「応用例等で利用した」といった内容が後出し的にならないので良いように思いました。何か論理的な目論見、こうなる必然性があったのだとすると、その理由を読み取ることができませんでした。
今後は,著者らの述べる電磁石配置の変更による多彩な表現,あるいは表現形式に応じた知覚についての詳細評価に期待します.電磁石については,アレイ方式だけでなく,群ロボットのようなデバイス,あるいはステッピングモータとXYガントリーのようなものを活用したアナログな平面移動機構と組み合わせるどうなるのか気になりました.あるいは,液体中に固体の磁性体を混入すると何か表現の幅が広がるか,なども気になりました.一方で、生活空間での利用、という文脈では、現状の実装手法やこのような方向での改善が適しているかについて検討が必要に思われました。
概ねすべての査読者が,新規性やシステムが正確に実装されている点を認めています.
ただ,有用性の議論が不十分であるという指摘が多くありました.具体的には,提案手法の目的(課題感や目指すところ)が不明瞭であり,本システムがどのようなメリットを提供するのかが明確に伝わらないという意見がありました.
また,記述に関しても,エビデンスが乏しい箇所が見られるという指摘がありました.例えば,「システムを生活空間で長期的に利用する」としているにも関わらず,有害性のため触れなかったり,電磁石アレイというシンプルとは言い難いシステムを使っている点などが指摘されました.
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プログラム委員での審議後,本論文は採録(条件付き)と判定されました.議論を呼ぶようなシステムが正しく実装されており,WISSの登壇発表として参加者へ共有することが有意義であると判断されました.ただし,以下の条件を設定します.
「1. 提案手法の目的(本提案により,どんな貢献があるのか)について追記する」
後ほどお知らせする締切までに,修正原稿をアップロードしてください.修正の際は,他の査読コメントも参照してより良い論文にしていただければと思います.