査読者1

(Primary)レビューサマリ

概ねすべての査読者が,新規性やシステムが正確に実装されている点を評価しています.記述に関しても,いくつかタイポが見られたものの理解しやすい構成で問題ないと思われます.
一方で,有用性に関しては若干の疑問が提示されました.例えば,3Dプリント未経験者に対して将来的なプリンタの利用可能性を検証していない点や,より進んだ技術を学ぶための方法を明確にしていない点,また,ユーザの所望の形状を作れず自作感が薄いという結果が出た点などが指摘されています.
しかしながら,実装されたシステムと記述は正確であり,参加者間で議論が広がるようなWISSらしい論文であることから,査読者間の議論を経て「採録(条件なし)」と判定しました.
採録条件はありませんが,各レビューコメントを参考により良い論文にしていただければと思います.特にタイポに関しては修正いただければと思います.

(Primary)採録時コメント

3Dプリント未経験者向けに,簡易な作業のみで3Dプリントを体験させるシステムが提案されている.ボタン押下のみというオペレータ不要な簡単な手段で3Dプリンタを操作可能である.新規性が明らかであり,システムが正確に実装されている点が評価された.本システムで3Dプリンタに触れてみたユーザに対する将来的なプリンタの使用可能性や,より進んだ技術の習得方法など,システムの有用性については今後明らかにされていくものとする.以上の理由から,採録と判断された.

(Primary)論文誌として必要な改善点

- 本研究の目指すところである「簡単に準備なしで利用可能」なことや「未経験者が3Dプリンタを知った気になれる」「自分でも使ってみようという動機にも繋がる」などを検証する追加調査
- 新規ユーザがより進んだ技術を習得するために想定されるロードマップ等の議論

総合点   (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4: どちらかと言えば採録

確信度   (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2: やや専門からは外れる

採否理由

3Dプリントを知らない・興味がない人向けに,簡易な作業のみで3Dプリントを体験させるシステムが提案されています.ボタン押下のみというオペレータ不要な手段で3Dプリンタを操作でき,出力物を任意形状のテトリスのブロックとすることで,出力後の取り外し操作もプレイフルなものとして動機づけています.
3Dプリンティングに全く関わりのなかった人を対象にした3Dプリンティングシステムという点で新規性があると思われます.
目指す設計要件を満たすようにシステムが実装されており,1ヶ月にわたって運用されていた点は評価に値します.記述に関しては3章あたりがやや気になりましたが(コメントに記します),ワークショップ論文としてはそこまで問題はないと思います.
一方,有用性についてはユーザへのインタビューが行われているものの,やや不明瞭・不十分と思われます.本研究の目指すところである「簡単に準備なしで利用可能」なことや「未経験者が3Dプリンタを知った気になれる」「自分でも使ってみようという動機にも繋がる」などを検証する調査が十分ではないと感じます.
しかし,WISSにおいては評価実験が必須ではなく,コンセプトをもとにしたシステムとして十分に実装されているため,採録が妥当であると判断します.有用性については発表の場でも議論できれば良いと思いました.

改善コメント

- 3Dプリントを知らない人向けの造形システムという点で新規性があるとは思いますが,3Dプリント初心者向けの支援手法に関する先行研究はあると思いますので,それらを(1章などで)軽く紹介した上で本研究との差分を明示していただいた方が,本研究の新規性がより理解しやすくなり良いと思います.
- 3.2~3.3が少し理解しづらかったです.3.2の「システムの利用(ボタンを押した)経験」とは,提案システムの利用回数ということでしょうか?半構造化インタビューを実施したとのことですが,用意した主たる質問項目のとしては「システムの体験で 3D プリンタについて理解できたことはあるか」「自分が作った感があるか」の2点だけということでしょうか?本来,2.1で定めた要件や本システムによって目指すべき効果に沿うような質問をするべきだと考えます(「操作が簡単だったか」「操作に対しフィードバックされてると感じたか」「3Dプリンタに興味を持ったか」「今後も3Dプリンタを使いたいと思ったか」など).また,「自作感があるか」という質問を選んだ理由があまりよく分かりませんでした.3.3のインタビュー結果の「概ね好意的」との意見が何名からの意見だったのか気になりました.
- typo: 1章1行目「ディジタルファブ十ーション」,2.2節3段落目「提案システ ムはノズルとベッドの温度を上昇を伝える表示」,3章1行目「3D プリンタ対して」,5章「ログから分析できた情報は以 外は得られていない」

査読者2

総合点   (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4: どちらかと言えば採録

確信度   (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2: やや専門からは外れる

採否理由

3Dプリンタに興味のない人たちに3Dプリントを体験をさせることを目的とした
「簡単なボタン操作のみで3Dプリンタのすべての工程を体験可能なシステム」
の提案である。

事前の知識や3Dプリンタを管理するオペレータも不要な運用で実験を行い、
1か月間で、166回の造形が行われ、ボタンは約2.7万回押下されたという報告である。
体験者に対して半構造化インタビューを実施しシステムの利用の仕方についても明らかにしてある。

この運用の面白いところは、1人のユーザが印刷すべての工程を体験しているわけではない点である。
通常3Dプリンタは印刷を開始してからし終わるまでに長い時間がかかる。
こういった廊下での運用において、最後まで見届ける可能性はそう高くはない。
そこを造形中の3Dプリンタに対して、ボタン連打によって印刷速度が上昇する「応援」を実装することで、
造形中にも働きかけることが可能となる。

造形の開始、造形中の速度変更、印刷物の回収、次の造形の準備など、これらの工程を同じユーザがしたわけではない(すべて異なる可能性も大いにある)点が面白い。

印刷物はなじみのあるテトリスになっており、何を出力するかのゲーム要素もある。
また、ホルダーに簡単に設置できるようになっており、崩れにくい。

自作感がない、という点も今後の課題ではあるが、モデリングの工程は時間もかかり、完全にオペレータ不要では難しいという点もある。

3Dプリントになじみのない人に、フィラメントを溶かして作る、積層型で作ることができる、このように時間がかかる、などを体験させることができるのは魅力的である。

今回は大学の廊下での運用であったが、科学館などの展示により、小中学生など技術に興味を持つ子どもにも体験可能性もある。

ユーザ体験デザインとして魅力的である一方で、技術的な観点の新規性、貢献度が低く、やや採録よりと判断した。

改善コメント

採択された場合には、WISSの会場で3日間展示し続けて行動の様子を見てみたいです。

査読者3

総合点   (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4: どちらかと言えば採録

確信度   (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

2: やや専門からは外れる

採否理由

3Dプリントをとにかく1度体験してもらおうという、発想からたいへんユニークな取り組みで、興味深く査読させていただきました。
インタビュー結果にもありますが、自作感はないという回答が多かったことが今回の構成の課題の本質ではないでしょうか。3Dプリンタという道具の新規性は、市場に流通する大量生産品の物品ではなく、今、自分が必要としている形状のものを3次元物体として出力できることにありますので、そこも含めて体験できれば、3Dプリンタが自分にとって役に立つイメージがより持てるようになるはずです。
このような議論が出てくることが、この論文の良い点だと考えており、新しい技術を広く社会に受容してもらうための方法論というより広い論点での活発な議論が期待できます。

改善コメント

3Dプリンタが自分にとって役に立つ道具であると感じてもらうことも目的にいれるのであれば、たとえば、テトリスで横のラインが新規に揃った行数に応じた個数のお菓子をもらって良い、などのルールを作って、この形状のテトリミノが欲しいという動機を体験者に持たせた上で、出力するテトリミノだけ選択してもらうといった方法もありえたかと思います。
また、同じ場所に設置していると、慣れている人が何度も使ってしまうことになりますので、オープンキャンパスのような、本当に3Dプリンタに接点の少ない方がたくさん来る環境下で実験をした結果もぜひ見てみたいと感じます。

査読者4

総合点   (1: 強く不採録~6: 強く採録)

4: どちらかと言えば採録

確信度   (1: 専門外である~3: 自身の専門分野とマッチしている)

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

- 新規性
新規性があると思われる.近年のHCIxFabの分野では,3Dプリンタなどの汎用装置を使って特殊な機能・特性を持つ研究が主流であり,3Dプリントをとりあえず使ってみることだけに集中する内容は無いのではないかと思われる.

- 有用性・正確性
将来的に有用になりえるシステムだと思うが,現状では提案システムがきわめて有用だとは言えない.印刷速度の可変性・印刷可能な形状・造形の仕組み・造形物の手触りなどは,実はユーザが造形に介入しないセットアップ(完成したサンプルだけをユーザの触れるテーブルに置いておき,ガラス越しに連続造形できるプリンタがプリントし続けるなど)でも一定程度は学習可能だと思われる.著者らが展望として挙げている通り,とりあえず3Dプリンタに触れることに成功したユーザが,最終的にモデリング・スライス・造形など基本的な知識を身に着けたり,ハードウェア自作/デバッグ・Gコード作成・アルゴリズミックデザインなど高度な作業ができるようになったりするための方法はこれから考えることだと思われる.発表の際は,仮でも良いので新規ユーザが深い技術を身に着けるためのロードマップなどを伺えると嬉しい.
論文の正確性は高い.

- 論文自体の記述の質
6ページの制約の中で理解しやすく整理されている.タイポはいくつか見られるが,マイナーリビジョンの範疇だと考えられる.

現時点で大きな有用性を見いだせたわけではないが,実装されたシステムと記述は正確であり,デモも含めて参加者の議論が期待される.そのため,どちらかと言えば採録の判定とした.

改善コメント

なし