離れたデバイスの画面を見ながら手元のデバイスに対して直視せずに入力する「間接タッチ」という入力方法について,母音→子音という順序で入力するユニークな方法の提案が評価され,採録と判断された.母音→子音という順序の文字入力は直感に反するのでは?というナイーブな疑問があるが,著者らは実際にスマートウォッチアプリを開発して実験的に提案手法の良さを検証している.ぜひ提案手法で文字入力を試してみたいと思わせる研究である.
実験で比較対象としている間接タッチにおけるフリック入力手法は、提案法に比べて不利な条件に思います。本研究で確認したい主張について整理した上で実験設計を行うべきと考えます。例えば「母音→子音」という順序が重要であると主張するならば、その主張が明らかになるように実験を設計するべきです。
そういう意味では、本研究の研究課題(リサーチクエスチョン)を「はじめに」などで明らかにし、その課題を中心とした論文の構造をとることも論文の質の向上、読者の可読性の向上に寄与すると思います。
4: どちらかと言えば採録
2: やや専門からは外れる
テレビなどの離れた画面に対する文字入力を手元のデバイスで行うとき、手元のデバイスを目視せずに文字入力を行う手法(=間接タッチ)について、スマートウォッチを用いた日本語入力方法を提案しています。
・提案されている内容の新規性(先行研究との差分が十分にあるか)
入力デバイスを目視せずに文字入力を行う間接タッチにおいて、日本語入力手法の提案は新規であると主張しています。とはいえ、スマートフォンなどにおいて、画面を注視せずに入力する提案はあります(論文ではスマートウォッチに限定して関連文献としてあげています)。本提案は出力(テレビなどの離れた画面)を活用することが違いであると述べています。
・有用性(実際に役に立つか),正確性(技術的に正しいか)
離れた画面に対する文字入力は、画面にポインタを表示し、画面上のキーボードを操作する方法およびそれに音声入力を組み合わせた方法が主流です。それに対して提案方法は間接タッチを採用しますが、この利点は論文中ではあまり言及されていません。この意味で、また、従来法との比較がされていないため、実際的な有用性についてはやや弱いです。一方で、提案する方法で文字入力を行なった結果を示しているところに学術的な貢献があり、その意味では有用であると言えます。
論文では、提案法の設計と実装がそれなりに詳しく書かれています。これを読む限りにおいて、設計には一定の妥当性があるものと思われます。
・論文自体の記述の質(分かりやすく明確に書かれているか)
論文自体はわかりやすく書かれています。しかし、本提案の研究課題は必ずしも明確ではないので、例えば実験においては、なぜこのような実験を行っているのか、実験によって何を明らかにする必要があるのか、がわからず、ただユーザビリティ指標やRawTLXといった他の論文で使われている評価を行っているだけ、という印象があります。この辺りは雑誌論文などにする際には考える必要があります。
よくわからないことがあります.特に実験についてです.
実験の目的やその解釈が十分に説明されていません.結果の解釈を読者に求めていないでしょうか.
統計分析において文字入力速度およびトータルエラー率については2要因の参加者内実験計画についての分析をしています.ここでは下位検定に割と新しい方法であるART-Cを用いているようですが,ART-Cを用いる妥当性はわかりませんでした.下位検定は1要因ですし普通にノンパラの順位検定などをすれば良いのではないでしょうか.
有意水準を複数設けるのは良くないのでやめましょう.効果の度合いを示したいのであれば効果量を用いましょう.
図7や9において,エラーバーは何を示しているでしょうか.
トータルエラー率を[3]を引用して定義しているようですが当該文献にはその定義が見つかりませんでした.
4: どちらかと言えば採録
2: やや専門からは外れる
・新規性
スマートウォッチのスワイプを活用し、オクルージョンを軽減しつつ母音を先に選択する入力手法は新規性が認められます。
・有用性、正確性
間接タッチの条件では提案手法が有利な結果が得られているものの、比較対象であるIF方式は最初のキー選択が特に難しい方式であり、ややアンフェアな比較であると感じました。
・論文の記述
わかりやすく記述されています。
IF方式を、スライドで画面にポインタを出して目標のキーまで指を移動させ、画面プッシュで選択する方式とするのはいかがでしょうか。エラー率はかなり下がり、入力速度は若干遅くなると思いますが、フェアな比較ができそうだと思いました。
現実的には音声入力との比較も必要だと感じました。それが困難な状況として、音を発するコンテンツ(例えばスポーツ中継)の再生中に入力するシチュエーションを想定すると、提案手法の有用性をより強調できると思います。
5: 採録
1: 専門外である
カメラでのセンシングの発達により、ハンドジェスチャを中心とした操作系が構築されるケースも増えていますが、その際に困るのが文字入力です。
腕につけたスマートウォッチを使って高速に文字入力を行うことを目指した本論文は、そうした技術的なトレンドとも相性が良い研究と感じました。
フリック入力に慣れている世代の実験参加者に対して、フリック入力とは母音と子音の入力順が異なる提案方式で、十分な文字入力速度が出ています。その上、本番タスク中も入力速度が向上している傾向が見られるため、さらに十分なトレーニングを行うことで、差異を縮めることが期待できそうです。
また、個人差の大きい入力インターフェイスの実験において、アンケートにおいてどのような個々の反応があったのかがわかりやすくまとめられており、改善の方向性がイメージしやすい実験結果の記述でした。
考察でも述べられていますが,スマートウォッチの画面サイズになると,ファットフィンガ問題が深刻ですので,一定期間の訓練をした上で,直接タッチのスライド形式と直接タッチのフリック入力とを改めて比較していただいた結果を見てみたいと感じました.
また,ハンドジェスチャーを採用したHMDにおいても,提案の入力方式は有用だと思われます.ぜひ使ってみたいです.
日本語での入力方法の研究は,日本語話者が行うしかなく,研究と実用が隣接する領域ですので,実社会への展開も含めて,期待しています.
5: 採録
2: やや専門からは外れる
操作対象が表示された画面に直接触れるのではなく、出力面とは別の入力面を介して行う入力手法間接タッチにおいて、新たな入力手法の提案であり、新規性は十分にある。
母音を選択したあとに子音を選択するという手法の提案であり、ローマ字入力とは逆順であるので使いづらさがあるように思えるが、評価実験の結果、12名中11名が間接タッチでは提案手法を選んでいる。
また、直接タッチにおいて、日頃から使い慣れているフリック入力と並んで、12名中6名が提案手法を選んでいる点も興味深い。
子音と比較して数が少ない母音から選択することで、操作デバイスを見ずに入力を開始できるメリットがあり、タッチダウン後はポインタが出力することにより、表示数が多い子音を確実に選択することが可能になる。
手法の新規性に加えて、丁寧に実験もしてあり有用性も評価できる。WISSで議論することでさらなるブラッシュアップも期待できると考え、採択と判断した。
WISSの会場で実際のデバイスを触って入力してみたいため、デモ展示も検討していただきたい。
特段シェパーディングなどをせずに採録できる論文であると考えます.総合点は4, 4, 5, 5です.
本提案は,スマートウォッチなどの手元のデバイスを用いて,ある程度離れたデバイス(例えばテレビ)への文字入力を行う方法に関するものです.手元のデバイスの画面を見ながら文字入力を行うのではなく,離れたデバイスの画面を見ながら手元を直視せずに入力する「間接タッチ」という入力方法について,母音→子音という順序で入力する方法を提案しています.
著者らは提案手法をスマートウォッチに実装しています.
提案する方法について被験者実験を行ったところ,文字入力がおよそ30文字/分,トータルエラー率(求め方不明)が10%程度であったことを報告し,十分実用であると主張しています.
被験者実験では,間接入力(提案法とフリック手法)と直接入力(提案法を直接タッチに適用したものとフリック手法)の4手法の比較も行っています.
直感に反すると思われる提案法が好まれる傾向も報告され,興味深い研究となっています.