本研究は,スマートウォッチ等に内蔵された加速度センサのみによるThumb-to-fingerジェスチャの認識を目指し,あらゆるジェスチャの予備評価,そこから識別性能が高いセットの抽出,という分かりやすい流れで研究が進められており,すべての査読者が新規性・有効性を認めてポジティブなスコアをつけていました.一方で,Thumb-to-fingerジェスチャ自体はよく知られたもので,加速度センサのみでジェスチャを認識するようなものもよくあります.その組合せという意味では,説明に時間を要する新規なアイデアは多くないため,ショート採録が妥当という判断になりました.
4: どちらかと言えば採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
本研究は,Thumb-to-fingerジェスチャを手首の加速度センサのみで認識する手法を提案しています.多数のタッチ点候補を網羅的に評価し,精度の高そうな部位のみを利用することで高い精度での入力を提案しています.全般的に手堅く研究が進められており,好感の持てる論文です.一方で,Thumb-to-fingerジェスチャ自体は既存の概念で,加速度センサの処理も特に新しいアイデアに基づくものではないため,インパクトには欠けます.このような研究では,その流れの手堅さと同時に,評価として実用性に踏み込める網羅性が必要であると考えます.そういった点では現状物足りないところもあります.査読者が特に気になったのは下記の点です. ・既存研究は,片手に超小型端末を装着したジェスチャ認識で,疲労があるのが問題,とされていますが,提案手法も片手に超小型端末を装着していますし,疲労が軽減されているとも言っていないので,既存研究の問題を解決した手法なのかどうかが分かりませんでした.何か星取り表のようなものを出していただけると,提案手法の位置づけがより明確になると思います. ・本研究の貢献に関して.本研究の貢献は,「加速度センサを用いて,超小型端末を装着し た手のthumb-to-?nger ジェスチャを認識し た.また,その認識性能を調査した」となっていますが,著者らがWISS2022で発表したものなども含め,同じようなジェスチャ(FingerT9的な入力もThumb-to-Fingerジェスチャであるという理解です)を加速度センサのみで認識するという研究はすでに多いように思うのですが,どういった点で,この提案が貢献であるとしているのでしょうか.また,貢献の1つめと3つめはほぼ同じことを言っていませんか.また,2つめの貢献は「掌を下に向けた掌が見えない状態におけるthumbto-?nger ジェスチャに対する主観評価を調査 した」とありますが,手のひらが見えない状態を調べたことに対する価値が示されていません.例えば,見える状態と見えない状態ではどう違うのか,といったところが評価されていれば,手のひらが見えない状態を調べた,という価値がでますが,そうでなさそうなので,手のひらが見えないことで何が違うのか,という点がわかりませんでした.1章に,貢献として内容が列挙される場合,その貢献をベースに論文が評価されますので,貢献を書くときは気をつけられた方がいいと思いました.
5: 採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
本研究では,スマートウォッチ内蔵の加速度センサを用いたThumb-to-fingerジェスチャ入力を提案されています. 実時間で動作するプロトタイプを作成し,評価までされていることは評価されるべき点だと考えます. WPMの平均が3.11ですが,習熟によってWPMの増加は期待でき,6章で議論されている通り,今後の発展によってはさらに向上できる可能性がある研究だと感じました.
4: どちらかと言えば採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
本研究は、手の親指を使って他の指の部位をタップする操作である Thumb-to-fingerジェスチャを用いた片手でのスマートウォッチの文字入力手法を提案しています。提案手法では、スマートウォッチに備えられた加速度センサデータを用い、機械学習によってジェスチャの識別を行っています。類似したジェスチャを用いたスマートウォッチの文字入力手法は複数存在している[15][29]が、スマートウォッチ内蔵のセンサのみを用い、追加のセンサ・デバイスを必要としない点において、有用性が認められます。 一方で、全体的に不明瞭な点が多く見受けられます。 ・著者らは結論として、F1スコアが高い上位 8個のジェスチャであれば 90%以上の精度で識別ができ、これは「参加者ごとに高い正解率のジェスチャセットを作成できる」ことを示すと主張しています。しかし、本論文で最終的に提案されている文字入力手法は、ユーザごとに認識精度の高い異なるキー配置の入力手法を提供するものではなく、4・5章でもすべてのユーザが同じキー配置の入力手法を用いることを考慮した設計・評価が行われており、一貫性がないように思えます。 最終的に使用されたキー配置でのジェスチャ識別制度は 87.6%と、概要・おわりにに結論として主張している 91.5%よりやや低い結果となっており、読者に誤解を招く可能性があります。 ・図4の最終的に使用されたキー配置について、ユーザの学習コストを考慮すると index1, index3, middle1, middle3, ring1, ring3のような配置をしたほうが分かりやすいように思えるのですが、index3が採用されずに palmが採用された理由が気になりました。(査読者は 4章で示されているジェスチャの選定方針(3)にある、互いの誤分類率が高いグループであったのかなと推測していますが、誤分類率が掲載されていないため確証が持てずにいます。一般的に、機械学習によるジェスチャ識別の研究では confusion matrixで表現されることが多いです。) ・5.3に記述されている、最も練習が長かった参加者は、どの程度 (数十分程度?数時間以上?)練習をしていたのかが気になりました。前述したようにキー配置もやや直感性に欠けるため、ユーザの学習コストもやや高いのではないかと思われます。
「参加者ごとに高い正解率のジェスチャセットを作成できる」ことの活用法や議論については論文全体を通して特に触れられていないので、記述しない方が論文に一貫性が保たれるように思えます。(もし、将来的な活用法があるのであれば、議論として加筆していただくと良いかと思います。)
5: 採録
2: やや専門からは外れる
この研究は,Thumb-to-finger(親指で他の指or手のひらに触れる)ジェスチャをスマートウォッチ内蔵のIMUセンサにより認識することで,スマートウォッチを装着した手のみでの文字入力を実現する手法を提案しています.同様のアプローチはこれまでに無く,利き手がフリーになること等の利点もあり,一定の新規性・有用性があると考えます.また,論文は概ね明確かつわかりやすく書かれていました.
- 本論文で報告されているユーザ評価は予備的なものですので,今後入力速度やエラー率,および習熟による影響を詳細に調査されることを期待します. - 動画を見ると,ジェスチャ時に指をやや勢い良く動かす必要があるようにも見受けられ,疲れそうにも見えます.今後は,継続的な使用時にどれほど疲労するのかを既存手法と比較されることを期待します.
不明瞭な点はあるものの,ジェスチャのデザイン,予備評価による適切なジェスチャセットの選定,評価実験と丁寧に書かれており,スマートウォッチ内蔵センサのみを用いたハンドジェスチャの提案として充分採録に値するとすべての査読者に判断されました.