査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

近赤外線カメラとサーマルカメラを用いて接触や消毒行為を検出し,プロジェクタでウィルス付着状況を提示するルームスケールのシステムを提案した論文です. 提案システムの新規性を担う部分の有用性が示せていない点などに懸念があるものの,システムの実装はされているため,WISSで議論可能な論文であると判断されました.

[メタ] 査読時のレビューサマリ

4人の査読者のスコアは4/4/3/3でした. 提案システムについて,インパクトは大きくないものの新規な部分があることを査読者らは認めています. 一方で,有用性や信頼性については以下のような懸念があり, 論文の修正が必要です. 特に,新規性の要といえる冷痕跡検出の有用性が示せていないことは大きなネガティブポイントです.
・熱痕跡と冷痕跡の両方を認識できる点が強調されているのに対し,評価からは冷痕跡が取り除かれており,うまく実装できているのか疑問. また, 評価から除外した理由の妥当性に疑問 (R25, 47)
・感染予防のための消毒支援システムを想定している以上,システムの認識性能に関しては十分な議論が必要 (R47)
・2種類のカメラによって簡便に求める手法は提案されており,それとの差分が不明瞭 (R76) ・想定している導入環境が不明確 (R47, 8)
・画像処理の閾値設定の妥当性が不明瞭 (R47) システムの実装はされており,議論できる状態ではあると判断されるため,以下を条件としたショート採録とします.
1: 消毒行為 (冷痕跡) について, 評価から除外した理由の追記/修正, 信頼性についての議論の追記
2: システムの認識性能と安全性に関する議論の追記
3: 先行研究との差異について,Iwai&Satoの手法を引用し追記
4: 想定している導入環境について追記 (必要に応じタイトル修正)
5: 画像処理の閾値設定の妥当性を追記

[メタ] その他コメント

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

人の接触箇所を検出し, プロジェクションにより可視化することで, ウィルスの付着を警告するシステムを提案した論文である. 先行研究 [9] と比較した本研究の主な差分は, サーマルカメラを用いて接触検出の精度を高めたことと, 消毒行為の検出を可能とすることである. ベースとなる提案に大きな違いは見受けられず, 本研究の新規性は低いと判断される. 本稿では接触検出の性能評価を行っており, その結果報告に一定の有用性はある. 一方で, [9] との差分の一つである消毒行為の検出については未検証であり, その有用性は明らかでない. 記述内容については不明点がいくつかあるものの概ね正確である.

この研究をよくするためのコメント

下記は読み進める上で疑問に感じた箇所である. 説明を追記されたい.
・実験ではシステム・条件ごとに適合率・再現率に大きな差があるが, 主要な原因はシステムのfpsの差なのか, 実験環境 (気温) の影響なのか, サーマルカメラのケース有無なのかが読み取れなかった.
・服越しに触れた場合 (着座時の座面や背もたれ) には, ウィルス付着は懸念されないものの熱は残るのではないかと思われる. 実験/デモ中に誤検出されることはあったのか.


査読者2

総合点

3: どちらかと言えば不採録

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

本研究の実装アイデアは、容易に運用できるので、非常に有用だと思われます。 ただ、Covid-19の接触感染のリスクは、当初言われているほど高くなく、
https://academic.oup.com/cid/article/75/1/e307/6505265?login=false
本研究をどのように生かすか、検討が必要だと思われます。 また、部屋の環境がオフィスとかでは無い限り使えないのも気になります。 例えば、直射日光が入っている場所だと、物体の温度が上がってしまうので、 本手法が使えないのでは無いかと考えます。

この研究をよくするためのコメント

一般的に接触感染は、Covid-19より、他のウィルス(例えばノロウイルス)とかいろいろあるので、 どこで本技術を使えるのか、議論する必要があります。 また、食品加工業者とか接触感染のリスクコントロールを必要としている 状況に応じたシステムも面白いと思います。


査読者3

総合点

3: どちらかと言えば不採録

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

概要:近赤外線カメラとサーマルカメラを併用することで実環境で人の接触や消毒行為を検出し,プロジェクターで重畳表示するシステムを提案・実装し,部分的な認識率の評価等を行っている. 査読コメント: アイデアには一定の新規性があり,実装方法も丁寧に説明されていると思います.その一方,有用性や信頼性にはかなり疑問が残るため,評価をやや下げました. 以下気になった点について述べます.
- タイトルに「実環境」と記述されており実環境でのある程度実用的な利用を想定したシステムを期待しましたが,プロトタイプはサーモカメラ/近赤外線カメラ/プロジェクタを最低限必要とし,かつ限られた範囲にしか投影/撮影できないため,実環境でスケールするような利用ができるのか相当疑問が残り,論文中でもほぼ議論されていません.本システム一式で利用対象とできる空間の広さや,金銭的なコスト,及び家庭やオフィスなどのどの程度の範囲に導入する想定なのかといったことを議論されるべきです.タイトルの修正も検討された方がよいかもしれません.
- 概要や図2等を見ると,「熱痕跡」と「冷痕跡」の両方を認識できる点が強調されているのに対して,画像認識性能の評価からは冷痕跡が取り除かれており,うまく実装できているのか疑問が残ります.デモビデオの4分前後に冷痕跡(熱痕跡の削除?)の例が出てきますが,アルコールスプレーを直接吹き付けた箇所の熱痕跡は消えていますが,吹き付けたアルコールを布で拭いた部分はほぼ消えていないように見えます.布で消毒液を伸ばすと気化熱が足りなくなってしまうということなのかと感じましたが,論文で全く議論されておらず,信頼性に不安を感じます.  なお,評価をしない理由が「気化熱と消毒の有効性について調査しなければ正しく消毒が行えたかを判定できないため」とされていますが,ここでは消毒のための行為(スプレーや布吹き)自体が検出できたかを見ればよいはずで,的外れな理由に思えます.
- 画像処理性能の評価について,Dice係数が0.1以上であれば正解とするとされていますが,この閾値は相当低いように見えるため,どのように閾値を設定したのか,妥当性を説明して頂きたいです.
- 関連して,熱痕跡に絞った場合でも,提案システムの認識精度(最大で適合率0.46/再現率0.65)は相当低くなっています.これが表現のためのシステムならよいのですが,感染予防のための消毒支援システムを想定している以上,システムの認識性能に関しては十分な議論が必要だと考えます.現状の認識精度について,研究の目的に照らしてどの程度不足していると著者が考えているのか,そもそも適合率と再現率のどちらを重視したいのかなどを十分議論したうえで,5.3のような解決策について記述されるべきです. (そもそも現状でもある程度使えるという認識なのでしょうか?査読者には不十分なように思えるのですが..)

この研究をよくするためのコメント

- もし加筆した場合に分量が足りなくなるようなら,5.1デモ展示に対する感想や5.4感染による感染可能性に関しては,削除してもよいように思いました.システムの信頼性によってユーザの反応は大きく変わってしまうと思うので,現状の記述は限定的な内容になってしまうと思います.
- 図6. 背景画像更新手法の概要 >本文との対応付けがやや読みにくいため,各条件に番号を付けるなどして整理してはどうでしょうか?特に最後の二つの説明順が本文と逆なのが気になりました.また,どの条件で熱痕跡が取得されるのかを明記された方がよいと思います.(最後の一つでよいのでしょうか?) また関連して,「d(It, Ib) < ε かつd(Ht,Hb) >= ε の場合,...熱痕跡と冷痕跡の有無を確認し,両方がない場合のみ」という説明がありますが,ここの「熱痕跡と冷痕跡」が既存の(前フレームの)ものなのか,現在のものなのか分かりにくい文章になっていると思います.適宜修正してください.
- デモビデオが5分というのは内容を考えても長すぎると思います.2分程度で十分まとめられる内容だと思いますので,倍速再生なども交えてテンポを上げた方が,魅力的に見えると思います.

査読者4

総合点

3: どちらかと言えば不採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

新規性、有用性:非常にシンプルで有用なシステム可と思います。一方で、2種類のカメラによって簡便に求める手法は提案されており、それとの差分がわかりませんでした。
Iwai&Sato(2011) Document Search Support by Making Physical Documents Transparent in Projection-Based Mixed Reality
論文の記述の質:特に問題はないと思います。

この研究をよくするためのコメント

熱追跡系の研究は非常に多いと思いますが、比較的引用文献が少ないように思いました。