査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

本論文は,1人のユーザを対象に,全周囲ディスプレイの見えない面を能動的に覗き込む行為のエンタテイメント性に着目したデバイス「UPLIGHT」を提案している.本デバイスのエンタテインメント性の議論が弱いという問題はあるものの,本デバイスのデザイン戦略には一定の新規性が認められる点を踏まえ,本論文はショート枠採録と判断する.

[メタ] 査読時のレビューサマリ

本論文が提案するデバイス「UPLIGHT」は,1人のユーザを対象に,全周囲ディスプレイの見えない面を能動的に覗き込む行為によるエンタテイメント性向上を図っている. 提案デバイスのデザイン戦略と実装について,全査読者が新規性と完成度を評価している.一方で,同じく全査読者が本デバイスのエンタテインメント性に関する議論が弱い点を指摘している. 本デバイスが新たな,あるいは先行研究よりも高いエンタテインメント性を有するかは本論文では明らかになっていないため,有用性を確証するには至らなかった.しかし,広範な観点から本デバイスのデザイン戦略が練られている点への期待は非常に高いことから,本論文をショート枠採録と判断する.

[メタ] その他コメント

・エンタテインメント性について,本デバイスによるインタラクション設計に特有の効果,もしくは先行研究との差異を主張するための評価検証の実施を勧める. ・見えない部分を覗き込む行為がエンタテインメント性を向上しうると考えたと記述があるが,この根拠となる知見があれば,明記してほしい. ・本デバイスの見えない部分を覗き込む行為を誘発する設計に基づくエンタテインメント性向上の意義を述べてほしい.

総合点

3: どちらかと言えば不採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

本論文では,全周囲ディスプレイの見えない面を能動的に見に行く行為(探索行為)がエンタテインメント性を有すると仮説を立て,このエンタテインメント性を実現するデバイス「UPLIGHT」を提案した. Positive ・提案デバイス「UPLIGHT」を実際に構築し,本デバイスの隠れた面を能動的に見に行く行為を生み出すアプリケーションを作成している.デバイスのデザインとハードウェア実装の説明が明瞭であり,デバイスの再現性は担保されている. ・シングルユーザ向けに,上記行為を誘発するインタラクションデザインを組み込んだデバイスの設計は一定の新規性を有する. Negative ・全周囲ディスプレイを用いた能動的探索行為によるエンタテインメント性向上の学術的・社会的意義が不明瞭である. ・隠れた部分を能動的に見に行くことがエンタテインメント性を有するという仮説の妥当性に欠ける.何らかの目的に対して隠れた部分を見ることが必要な場合,そこに必ずしも楽しさが生まれるとは限らないのではないだろうか.本論文では,この仮説は全ての状況において汎用的に当てはまり,ゲーム体験を対象にしたという位置付けのようであるが,ゲーム体験にのみ特化して当てはまる可能性がある,と捉える方が自然に思える.もしくは,この仮説に至った知見があれば,引用すべきである. ・上記2点と関連して,3章の関連研究(全周囲ディスプレイのエンタテインメント性の側面における応用例)では,提案デバイスの仕様およびインタラクション方式の違いが述べられているが,これらの記述は技術的な新規性もしくはエンタテインメント性の向上効果の差異のいずれも示しておらず,有用性が認められるとは言い難い.

この研究をよくするためのコメント

本論文では全周囲ディスプレイを用いた能動的探索行為を誘発するデバイスの開発を目的と述べているが,採否理由で述べた通り,本行為がエンタテインメント性を向上しうると考えた理由と,本行為によるエンタテインメント性向上の意義について,説得力のある記述を加えてほしい.この説明があって初めて本論文の目的と論旨の見直しを勧める.2章で述べる「UPLIGHT」の設計に妥当性が認められる.


査読者2

総合点

5: 採録

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

・新規性 一度に全体が見渡せない立体的なディスプレイを持ち、シングルユーザ向けのゲームデバイスおよびゲーム体験のデザインを探求した本研究には一定の新規性が認められる。 ・有用性 評価実験は行っていないものの、著者ら自身によるプロトタイプの実装、アプリケーションの開発とそれに関する考察は、提案システムの得失を網羅的に検討した、妥当なものであり、提案手法の有用性をある程度示していると考える。 ・正確性 使われている技術は妥当なものであり、正確に記載されている。 ・論文自体の記述の質 論文の記述は整理されており、質は問題ない。 以上により、強く推すものではないものの積極的に採録できるレベルであることから「5採録」が妥当と判断した。

この研究をよくするためのコメント

・覗く、ボタンで回す、手首を返す、手で回す・・などを可能な行為として見出している、あるいはデザインしているが、コンテンツ・局面によってはそれらのうちいくつかを抑止したいケースもあるだろう。たとえば6.1で述べているように、ボタンによる回転は止めたいというニーズがあったようだ。ボタンで回転させる機能は、単純にメカニカルシステムをdisableにするだけで可能だが、その他の3つの「能動的に見に行く」行為を抑止・制限するための工夫・デザインのアイディアなどはあるだろうか?たとえばnintendo switchは、コントローラ(ジョイコン)を本体と着脱可能にしたり、リングコンのような外部ハードウェアと組み合わせることにより、コンテンツに合わせて、可能なインタラクションを拡張・制限することを可能にしている。 ・2.5の楽しさに関する節について、「考えている」と記載されている点については著者らの立てた仮説としてとらえて(査読上は問題なく)読んだが、「その能動性は身体を大きく動かすほど強くなると考えられる」は、自然と導かれる推論ではないので、同様に「考えている」とするのが妥当かと思う。この節について、論の補強のため、もし土台としている感情や楽しさに関する文献があるなら、ぜひ引用されたい。 ・2.6 第3パラグラフ「自動回転はユーザによって制御できる状態は」は「自動回転がユーザによって制御できる状態は」の方がわかりやすいように感じた。 ・6.3の議論について。ゲーム「スーパーマリオオデッセイ」では、3Dのゲーム内部に2Dのレトロ風のスーパーマリオブラザーズのミニゲームが組み込まれており、上下が反転した状況や、地面が球面的な状況でのプレイが楽しめるようになっていた。これらは通常の2Dプラットフォームゲームにおけるプレイヤーの視点の置き方の想定外の変化とそれに伴う難易度の変化をうまくゲームデザインに取り込んでいる例の一つだと考えられるので、Uplightのデザイン、あるいはUplight用ゲームのデザインの参考になるかもしれない。 ・「覗く、ボタンで回す、手首を返す、手で回す」などのインタラクションにより、VR酔いのような何らかの疲労や不快感が生じたりしないだろうか。かつ、それはインタラクションの種類によってどの程度異なるのだろうか。現時点で深刻な問題はないと想像されるが、今後普及を考えた場合は必要な観点であろう。


査読者3

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

新しい携帯ゲームデバイスの提案の論文です.デバイスの全周に連続した画面表示ができるデバイスについて,そのデザイン戦略に基づくデバイスの設計を行っています. デバイスの新規性は高いと思われますし,このデバイスを見ることでどのようなコンテンツがマッチするかを考察することは有用であると思うので,少なくともデモ発表はぜひ行っていただければと考えています. 一方で,本稿を論文として見ると,エンタテインメント性の議論の部分がやや脆弱に感じます. 提案されているデバイス設計要件の大半は,単純に両面に液晶を持つデバイスでもほとんどクリアされてしまうもののように思います.最も重要なのは要件6の「全周囲連続的」という部分になると考えられるのですが,その観点とエンタテインメント性との関係性が積極的に語られていないように感じます. エンタテインメント性を持つデバイスの良さを論じるときには,それ自身がエンタテインメントでない限りはどうしてもコンテンツとの相乗効果を期待する(つまり,xxという性質のあるコンテンツはこのデバイスでエンタテインメント性が向上・強化される)という議論が欲しいところなのですが,5章以降ではそのあたりの掘り下げがあまりないように見受けられます.また,定性的であれ定量的であれユーザスタディによる評価もないので,筆者が主張されるデバイスの有用性があるのかどうかを確証するには至りませんでした.

この研究をよくするためのコメント

デバイスの差異によるエンタテインメント性の向上を論じるには,やはり比較評価の必要性を感じます.あるいは,このデバイス「にしか作れない」エンタテインメントコンテンツを挙げて,それを主張することも可能かと思います.ぜひご検討ください.

査読者4

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

この研究をよくするためのコメント

ARで自在に動かせるオブジェクトを使ってゲームを制作するのに比べ、本論文の研究では大きく自由度が下がってしまいます。物理的にそこにある価値は認められますが、ゲーム内容はあくまでディスプレイに投影された映像によるものですので、そことの比較は必要ではないかと考えます。また、このハードウェアの有用性はこのディスプレイを使った新しく面白いゲームが存在してこそ示されるので、ワークショップなどを行い、既存の枠に収まらない作品が複数本生み出されるような場を作るという方向も考えられますね。