新規性:提案手法に対して明らかな新規性を認める査読者がいた。一方で、論文中で引用されている参考文献は過去の近い研究というよりも、著者の過去の研究または今回の研究に使った研究という側面が強く、近い事例が過去にあったかは文章からは明確でない 有用性:すべての査読者が潜在的に大きな有用性があると認めている。一方で、複数の査読者から有用性を示す評価実験がない点が指摘されている 正確性:「任意の」「かなり正確に」など、科学的に不正確または不適切な表現が指摘された。また、「2.1 全般的な注意事項」は主にシステム実装の説明であって、説明と注意事項を分離するべき(もしくはそもそも注意事項ではない)という指摘もあった その他:味を提示するディスプレイとして、色体験として成立するのかという議論や香りに関する議論があるとよいというコメントがあった
5: 採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
本論文では、異なる基本味をもつ複数種類の液体を透明フィルム上に噴霧し、その下部で提示する映像とともに混合液体を舐めることにより味を提示するディスプレイが提案・実装された。 論文の前半では、提案されたハードウェアと液体の噴霧方式が解説されている。また、後半では提案手法が著者の過去の研究であるイオン泳動式の味ディスプレイと比較されており、長所・短所・展望などが示されている。 味を混ぜてディスプレイにするということ自体にはおそらく先行事例があるだろうと推測されるし、日常の料理でも近いことは実践されているが、実際にハードウェアを設計しインタフェースとして利用可能なレベルに仕上げている点が高く評価できる。 その一方で、例えば目標とする料理の味の再現性、複数のユーザによる差異、映像を利用する・しないに応じた味の連想度の比較など、考えられる検証は一切行われていない。また、味センサで分類したなんらかの味が、今回の提示に使用される基本味とどう対応するのかもわからない。しかし、WISSは評価実験を必須としておらず、プレゼンテーションやデモでの体験が重視されるため、提案に予想される有用性を評価し採録の判定とした。これらの点は発表の場で深く掘り下げられれば良いと考える。
6: 採録を強く推す
1: 専門外である
・新規性 液体噴霧混合の新方式による味覚の提示であり、明らかな新規性がある。 ・有用性 評価実験はないが、著者による過去の方式の味覚ディスプレイとの比較、およびアプリケーション例の提案などはいずれも妥当なものであり、有用性が認められる。 ・正確性 使われている技術は妥当なものであり、正確に記載されている。 ただ、提案の味覚ディスプレイにより、我々が普段味わっている味覚のうち、どの範囲がどの程度実現可能になったのかについての、より詳細な議論がほしい(後述)。 ・論文自体の記述の質 論文の記述は整理されており、質は問題ない。 以上により、専門外読者にもう少しわかりやすい説明がほしいと思うものの、明らかな新規性と有用性を備えている研究であるため、「6採録を強く推す」が妥当と判断した。
提案の味覚ディスプレイにより、我々が普段味わっている味覚のうち、どの範囲がどの程度実現可能になったのかについての、デザインスペース的な議論がほしい。たとえば電解質方式は「任意の味」と表現しながら、「あらゆる飲食物の味を、基本五味という狭義の味覚の範囲で再現」としているし、さらに5章の議論において、様々な得失が語られており、「任意」というには限定的である印象を受ける。同様に提案手法についても、電解質方式をより改善し、別の特徴を得て何らかの「任意さ」に近づいたものとの印象を受けるが、(5章では論じきれていない、)まだ実現できていないこともあるだろうから、それらについてのファクトと青写真について、整理された情報を知りたいと思う。
4: どちらかと言えば採録
2: やや専門からは外れる
味覚ディスプレイの新しい方式を提案しています。基本味を複数用意しておき、混合するという単純なものですが、それとロール状の透明シートを組み合わせることによって、画面に映ったものの味を感じるという体験を実現しています。 ある種の力技の研究ですが、合理的だと感じました。多くの感覚提示手法は、感覚受容器の特性に着目した「受容器刺激」の戦略をとるか、「環境そのものを整える」戦略を取るかという2つがありますが、今回は後者を提案したということで、リアルな味を作るためには当然の方策だろうと思います。 面白い内容なので問題ないと思いますが、論文中でやや砕けた表現(「かなり正確に」など)が散見されますので、修正いただいたほうが良いと思います。
4: どちらかと言えば採録
1: 専門外である
液体噴霧混合式で視覚と連動した提案味ディスプレイに新規性はあると考えられる。また、開発したシステムは興味深い物であり、今後のより詳細な検証を期待したいという点を評価し「どちらかと言えば採録」とした。 一方で、論文の記述としては向上の余地がある。「2.1 全般的な注意事項」というタイトルであるが、システム実装面での説明など多く、実装の説明と注意事項は分離して書く方が読みやすいと感じた。「2.2 味センサとの連携」では、味センサと連動して、料理の味を再現することが可能であると説明されているが、本システムでは実際にどのようなプロセスで味の再現が行われたのかを把握することができず、科学的な研究として説明が足りないように感じた。3章の議論では、著者の過去の研究であるNorimaki Synthesizerとの定性的な比較のみが行われているが、そもそも食体験として成立するかという観点での議論が必要なように感じた(一部、食体験面での比較がある)。 また、食体験を提供する視覚連動型の味ディスプレイという立ち位置のシステムであると理解しているが、料理にとって重要な香りという観点での議論でなく、本システムが食体験を提供できるとのかという面で判断できなかった。
採否理由を参照してください。
すべての査読者が実装と潜在的な有用性を高く評価しており、4?6と採択を推すスコアをつけています。実際に発表をしていただいた際には、今後の評価や応用の発展の方向性について面白い議論が可能だと思います。 その一方で、評価とみなせる事項としては著者の過去の研究との比較があるだけで、評価実験や過去の関連研究がほとんど記載されていません。そのため、現段階の原稿に対する発表としては、ロング発表の時間は必要ないと判断しました。そのため、採録条件のないショート採録という判定とします。 評価のないこの段階ではデモこそがとても輝く研究だと思いますので、ぜひ可能なレベルで実機を紹介していただけると大変有意義な発表になると思います。