査読スコアは,4(メタ), 5,5,6となっています. 各査読者がほぼ共通して,研究の価値は新規性/有用性/正確性ともに十分高いと評価されています. 現状の論文もよくまとまっているのですが,システムや支援ツールは特に実装されておらず,パラメーター設定等の性能面は(ややローカルな)一機種に限定されており汎用性が不明瞭であることを考慮して,基本的なアイデアと制作例の共有を中心としたショート発表が適切と判定しました. カメラレディで特に対応頂きたい修正はありませんが,Review90では細かな記述上の指摘等がされているため,ご確認ください. 将来的には,メタやReview90で指摘されているような実用面や耐久性等の議論等も追加して頂けると,より完成度の高い研究となると思います.
4: どちらかと言えば採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
アイデアの新規性,論文の完成度共に高く,採録方向で議論するべき論文だと思います. 一方,有用性はまだ未知数な部分も多く,既存のツールを組み合わせた加工方法を考案して作例を作ったという話で,システム等は特に実装されていないため,「 4: どちらかと言えば採録」としました. 査読者として気になった部分を以下にまとめます.
- レーザーカッター(特にフォーカスレンズ)へのダメージや安全性について 提案手法では広い領域を炭化させており,レンズにススやダメージが蓄積しやすくならないか気になります. (大学工房等多くの人が使うレーザーカッターでは,アクリル用/木材用等で機材を分けていたり,学生への利用を制約したりしている場所もあります.) また,炭化した部分を繰り返し彫刻するような動作を(誤って)した際に,発火などの危険性がないかも気になりました. 今後はこうした観点からも是非議論して頂けるとよいと思います. - 木のぬくもりについて 木のぬくもりを感じるという主張ですが,焦げ跡が露出する事例が多く,木のぬくもりから遠ざかってしまっているような印象も受けます.この辺り回路としての機能を保ちつつ外観を改善できる可能性があれば,議論して頂きたいと思います.例えば,黒檀やウォールナットのような木材なら焦げ目が目立たない等の可能性はあるかもしれません.(加工がやや困難かもしれませんが) また,上記に関連して,音量変更の例では焦げ目を隠せていて木材を用いたUI感が出せていますが,現実的には可変抵抗を一つ取り付けるだけで同じことができるので,(結局裏側には電子的な制御回路が必要なわけなので),メリットはやや限定されるようにも思います.この辺り,少数の電子部品を使って等価的な回路を作る場合と比較した議論もして頂けるとよいと思います. - ダメージセンシング 現状のダメージセンシングの事例は,用途が局所的すぎるのではないでしょうか?図5のような箱に一本の配線を入れただけで,軽微な破損を適切に検出できるとは考えにくいです.(おそらく図5は意図的に配線を切った例を出しているのだと推察しました.) 実際には,構造的に弱い箇所にパターンを作るか,全体的にパターンをめぐらせないと機能しないのではないでしょうか?特に,「建材等にも応用可能」という主張は,こうした議論なしにするべきではないと思います. -加工速度について 議論と結論で述べられている「所要時間は39.4 秒(1000/381×15)」というのは,理論値なのでしょうか? この式だとヘッドの初期位置への移動等のオーバーヘッドが考慮されていないように思えますが,非常に高速に移動するので無視できるということでしょうか?従来手法と比較した高速化も強く主張されているので,実測値も述べられるべきだと思います. -対応機種について - 提案されている加工手段が,一機種のレーザーカッターに限定されており,提示されているパラメーターなどに汎用性があるのか現時点では判断できません.MakerSpace/FabLab等,レーザーカッターを利用可能な施設は多くするので,将来的には複数機種でも検証した頂いた方が良いと思います. (システムではなく,加工手法自体が新規性なので,汎用性は重要な要素かと思います.)
- ラスタスキャン/ベクタスキャンについて,若い読者は知らなそうなので,冒頭等で簡単に説明いただいた方が親切かなと思います. - 図3のような加工対象の木材として,発表までに利用頻度の高いMDFも試していただけるとよいと思います.
5: 採録
2: やや専門からは外れる
本研究では、レーザー加工機で木材表面を部分的に炭化させ、木材に直接センサや回路を作成す る手法を提案しています。CWレーザー光の焦点をぼかし、繰り返しベクタスキャニングを行うことで、炭の回路の作成を高速化しています。 本稿はよく書かれており、目的および新規性が明らかです。適用可能な木材やレーザーパラメタの最適値に関してもよく調べられており、ファブリケーションの指針となる有益な情報が記載されています。応用例はバラエティに富んでおり、提案手法の有用性が認められます。また、ラスタスキャン方式とベクタスキャン方式を比較した結果、既存手法のそれぞれ200倍、600倍の速度を実現しております。 以上を踏まえ、WISSで議論する有意義な内容を含んでいると判断し、採録としました。
「一方で,従来手法で木材表面に回路を作成するには,木材に導電性材料を印刷/塗布する必要があり,木の風合いが損なわれてしまう」と書かれていますが、レーザーで炭化させることで木の風合いが損なわれないと強くいえるのかがよくわかりませんでした。
5: 採録
2: やや専門からは外れる
連続波レーザ加工機を使って木材表面を部分的に炭化させることにより、木材表面に回路や、タッチセンサや荷重センサなどのセンサを形成する手法が示されています。この手法は、木材が炭化した部分が導電性を持つことを利用しています。論文には、本手法がパーソナルファブリケーションに適していること、「本手法は木の温もりを保ちつつセンサや配線パターンを木製品に組み込むことができ,生活に近い場面での自然なインタラクションを実現できる」ことが主張されています。
- 新規性・有用性・正確性
レーザ加工機を使って回路パタンを形成する技術は既にあるので新規性が薄いという評価がなされる可能性もありますが、大学等に導入されている連続波方式のレーザ加工機を使って木材に直接パタンを形成できることを示しているので、十分に新規性と有用性があり、またinspiringです。また、センサを形成できることを示している点も、導電性インクを使った著者等の技術の焼き直しであるとも言えそうですが、木に直接センサを形成できる点はやはり新しく、有用であり、またinspiringです。
- 論文自体の記述の質
・論文自体には幾らか記述不足はあるものの、論文全体は分かりやすく明確に書かれています。以下に論文を読んでいた際に気付いた事を示します。対応する場合には加筆のための紙面を稼ぐ必要がありますが、その方策としては以下がありそうです。 - 「概要」から先行研究に関する記述を除く。 - 図のキャプションから本文と重複する補足説明を除く。 - 図7bを除く。 ==指摘== 1. 5.1節に「…ラワン材を用いて作成した炭の導電性が最も高く(30?75 Ω/sq),…」などとΩ/sqという単位を使っての議論がなされていますが、ここでの導電性とは何かということと、どう計測したのかを記述すべきように思われます(Ω/sqという単位から推すと、電気伝導率を測ったように思われますが、、、)。 2. 6.2節に示されている「衝撃検出ボックス」というのはどの程度の実現性があるのでしょうか。特に、なぜ衝撃で必ず配線が切れるのか、その仕組みを記述してください。 ==指摘(その他)== ビデオ: ・ビデオに示されているアプリケーション(特に14秒付近から始まるシーン)がビデオを見ただけでは分からなかったので、注釈をビデオを付けると良いと感じました(後から論文を読んで理解することはできたので必須では無いです)。 論文: ・形成したパタンやセンサの耐久性に関する議論をすると良いと思いました。経年劣化するのか、また湿気を含んでも機能するのかなどを議論すると良いと思われます。 ・2.2節に「fsレーザーは高価であり」とあるので、価格で議論を行うのであれば、fsレーザーを用いた加工機の価格帯と提案手法で必要となる機器の価格帯とを示して議論すべきように思われます。 ・5.1節に「炭を作成した」とありますが、どうやって作成したのでしょう。 ・6.3節に示されている「インタラクティブチェア」に用いられている重量に対する荷重センサの抵抗値の変わりっぷりを是非示してください。恐らく、図6aに、図7bにおいてPCに示されているのと同様の図を示すと良さそうです。 ・6.4節の「音量コントローラ」の説明に「半円状の電極が作成された2枚の木板を向かい合わせに配置しネジで固定すると,2個の電極が平行板可変容量コンデンサとして機能する.ユーザが板を回転させると,2個の電極の重なる部分の面積が変化し,…」とありますが、論文を読むだけで仕組みがわかるように書くと良いと思いました。論文を読んでいる最中は、論文に添付されていたPDFを見て理解できたのですが、改めて論文を見ると、図6bの右上に挿入されている図がそれに相当することに気付きました。ただ、この部分は小さくてパタンを読み取るのはできそうにないです。 ・7節にある「なお,本研究の一部についてACMUIST2021 でデモ発表予定である[6].」に相当する記述は方がカメラレディでは「1 はじめに」に移した方が良さそうです。
■採録の条件 (特に無し)
・今後日本語論文誌に投稿する場合には、日本語論文も引用した上で本研究を位置づけると良いと思われます。
6: 採録を強く推す
3: 自身の専門分野とマッチしている
新規性,有用性,いずれの点においても優れており,また記述の質にも問題無いことから,採録と判断する. CWレーザー加工機を用いて木材を炭化させることで回路を形成するアイデアは非常に興味深い.これまでのインタラクション分野に提案されてきた,あるいは用いられてきた回路形成手法とは異なっており,同分野の読者にインパクトを与えることができる.実装された複数のアプリケーション例では,いずれも木材のもつ独特の風合いを活かしながら生活に溶け込めるものとなっており,有用性も高い. 再現するための推奨パラメタも提示されており,読者にとって有益な情報が提示できている.一方で,冗長な記述が見られる.具体的には4章の記述が3.3節や6章の記述と重なっており,改善の余地がある.
以下は,論文を読んで査読者が感じた私見です.必ずしも,研究が良くなるかどうかはわかりません(ジャストアイデアだと思ってください). 木材以外にも,レーザーカッターを炭化する素材はあるはずです.それらに適用してみることは考えられますか?動画を見ると,ベクタスキャンの軌跡を手作業で制作しているようです.これを自動化するツールを作るべきだと思いました.配線の最小線幅や,隣り合う配線間の距離などについての情報があるとより良くなるでしょう.難燃剤を使うことが選択肢に入っているのであれば,導電性を高める難燃剤以外の材料を探索することも検討してみてはいかがでしょうか.
一般的なレーザーカッターでの加工時に意図的にレンズフォーカスをずらすことで,木材などの表面の一部を効率的に炭化させ,センサや回路として利用できる造形手法を提案している.各査読者が共通して,新規性/有用性/正確性ともに十分高いと評価した.一方,支援ツール等は実装されておらず,パラメータ設定等の性能面も一機種に限定され汎用性が不明瞭であるため,アイデアと制作例等を中心としたショート発表が適すると判定した.