2: やや専門からは外れる
本研究では、スキーシュミレータとHMDを組み合わせたVRスキートレーニングシステムにおいて、時間経過速度を遅くする時間歪曲手法の提案を行っています。また4パターンの時間歪曲方法の比較実験を行い、その効果の検証を行っています。 VRスキートレーニングシステムに時間歪曲手法を取り入れた点、また一定倍率で静的に減速するだけでなく、目標値との差分やコース状況に応じて動的に減速比を変化させる手法を提案している点は新規性があると考えます。 一方で、以下の点については確認が必要であると感じました。 <評価実験の比較条件について> 各評価項目について、ベースライン条件と4つの時間歪曲条件を比較しており、複数の項目で有意差が確認されています。ただし、4.2節で説明されているように、ベースライン条件はコーチトレイルの追従タスクを初めて経験するのに対し、他の4条件では同タスクを一度経験した後に再度実施していることになります。この場合、ベースライン条件と他の4条件間の有意差は、各条件での練習の効果ではなく単純に2回目以降であることによる学習効果である可能性が否定できません。具体的には、最初にベースライン条件を計測後、時間歪曲なしで2分間の練習を行い、再度ベースライン条件で計測を行う場合でも、有意に各評価項目が向上するのではないでしょうか? ※上記指摘は追加実験等が必要な内容かと思いますので、採録条件とはしませんが、今後論文を改善していく上でご検討いただくと良いかと思います。
動的な時間歪曲について: スキーシュミレータのように慣性が働く受動的な環境において動的な時間歪曲を用いる場合、すでに進行中の動作の途中で速度変更に対応することは難易度が高いのではないでしょうか?
4: どちらかと言えば採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
けん玉のシミュレーション内の経過時間を現実より遅くすることによって習熟を促進するという川崎らの研究に対し、スキーのシミュレーションで同様の実験を行ったのが本論文であると言えます。時間経過の倍率の高低と動的に変化させるか否かの条件の違いで実験を行い、適切な倍率で静的に時間経過を遅くすると効果が得られるという結論になっています。 スキーに川崎らの研究を適用したことと、それによって一定の効果が得られたということで新規性は認められます。一方で、動的変化の方がより変化が得られるという仮説は立証されておらず、より適切な動的変化を模索する必要がありそうです。デモができるようであれば、どのような変化がより良いのか参加者間で議論できるかもしれません。
細かい事ですが、Unity3Dという表記とUnityという表記が混在しています。https://unity.com/products を参照した限り、Unity3Dという表記はないようですのでUnityへの統一をおすすめします。 また、デモ動画中のガイドラインが右カーブから左カーブに変化する際、一瞬で切り替わるため違和感があります。計算上1フレームで変化したとしても保管などを行い違和感なくつなげた方が有用だったりしないでしょうか? また、動的に時間経過を遅くする際はモーションブラーなど何らかのエフェクトをかけると良いかもしれません。
4: どちらかと言えば採録
2: やや専門からは外れる
本研究は、(著者グループで開発された)VRスキーシステム上でスロー再生(時間歪曲機能)を用い、「スロー再生がスキーの訓練に効果的かどうか」を評価(ユーザテスト)した話である。具体的には、一定の再生速度(0.6倍速と0.8倍速)や動的な再生速度変換(コーチの通るコースに近いかどうか、コース自体の位置を用いた方法)といった数種類のスロー再生方法を用意し、どの手法がよいのかを比較実験している。けん玉に関する研究などのアイディアから、スロー再生の可能性を模索している点においては評価できる(技術的な新規性自体はないため、採録を強く推す形ではありません)。但し、実験方法などで気になる点があったので、こちらについて記載させていただきます。 - 本研究は、スキー技術の上達を支援するためのVRシステムの構築であるため、本実験のような短期的な実験(数回体験する)だけでは「スキー技術が上達する」結果につながっているのか、はわからないと思います。 - もう少し長期的な実験(数週間単位)を行い、各被験者のレベルが向上しているのかを分析したほうが良いです。但し、長期的な実験の場合は実験方法を更なる工夫が必要だと思います 本論文の短期的な実験では、スロー再生(x0.8倍速やx0.6倍倍速)を使うことが「トレーニングに一番良い」としていますが、長期的な実験では、常に同じ速度(x0.8倍速)を使いつづけるのが良いかどうかは疑問です。例えば、普段のスポーツ(or 楽器)練習では、「最初はゆっくり練習し、日にちの経過に応じて、徐々に早くしていく」といったように、本来の速度(通常再生)に近づくようにするものです。 なので、長期的なプランを考えるなら、比較検証用の方法をより多く用意するべきです。 - 技術が上達しているのか(education)に関する研究の場合、個人的にはですが 「どの方法がよいのか」だけでなく、「本機能を用いることで、技術がどれだけ向上するか」といった技術を確認するためのテスト(例:フィギュアスケートのバッジテスト)を行うほうが良いと思います。 以上の点から、現状の実験(短期的な実験)では、「VRスキーを数回体験するなら、一定の再生速度(0.6倍速と0.8倍速)が一番トレーニングに良い」という特段目を見張るような結果が得られていない印象です。なので、よりEducationにつながるような長期的な実験を今後実施し、「VRトレーニング」と「スキル」の関係を分析してもらいたいと思います。
- 本研究ではコーチの動きの可視化方法に関する言及がありませんでしたが、可視化方法についても検証するといいかもしれません。 例えば「現状だと小さいコーチモデル(白一色)を表示しているだけなので、もう少し拡大や時間の調整等を行い、コーチの姿勢を見やすくする」「コースから外れたら、テキスト情報で指示出ししてくれる」など。 - (特に)図6の解像度が低いので、ベクター画像にしたほうがいいです。
3: どちらかと言えば不採録
3: 自身の専門分野とマッチしている
スキーのVRトレーニングシステムについて,ユーザとコーチの状態を元にシミュレーション速度を増減させることによってトレーニング効果を高めようとする論文です. 仮説とそれを検証するための実験・論述は明確で,有用な報告になっています. 一方で現時点の実装は明確な効果が得られておらず,一方で仮説の棄却にはいたたない議論で,これからの発展に期待する段階に見えます.
スキートレーニングのVRシステムはとても魅力的で発展が楽しみな研究です. 他のトレーニングや実装で時間歪曲導入時に有効となったキー技術のうち,この用途でも有効なものがあるか,が今後の発展の方向に見えます.
4: どちらかと言えば採録