査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

本論文はWorlds in Miniature(WiM)手法をARでのオブジェクト操作に応用したものであり、この点での新規性は認められる。一方で、査読では技術的に新しい点はないこと、評価方法についての懸念があること、また提案手法の具体的な内容についても明確ではないことなどが示された。ただ、評価実験で得られた内容に有益な内容も含まれていることの指摘もあり、ショート採録と判定する。

[メタ] 査読時のレビューサマリ

本論文に対してはポジティブな意見が多く、総合点としては2(メタ)、5,4,4という分布となりました。査読者の議論においても、採録で問題がないという意見が多数でした。 研究内容としては、技術的にはHoloLens2の機能を使用してARでの3次元操作を行うというものであり、本研究の貢献の主なものはその評価実験でした。 しかし、評価実験自体は単純な2条件比較であり、評価実験としては十分とはいえず、また研究自体の貢献も大きくはありません。一方で、WISSの査読基準にあるように、大きな瑕疵がある訳ではなく、誤解を招く部分もないため、この点での大きな減点要素もありませんでした。 このため、研究として完成された段階ではないが、現時点でWISSでご発表頂くことは問題ないということで、ショート採録と判定します。

[メタ] その他コメント

総合点

2: 不採録が妥当

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

・新規性 本研究は技術的新規性ではなく、MR空間における3次元オブジェクト操作手法のユーザビリティ評価を行ったものである。WiM手法と、従来手法(具体的にはHoloLens2のデフォルト手法)との比較を行ったものであり、これまでにそのような評価が行われていなかったと言われればそのようにも思われる。 一方で、現在HCI領域においてはVR/MRでの3次元オブジェクト操作手法が数多く検討されてきており、単純にHoloLens2のデフォルト操作手法との比較のみで十分な新規性を有しているのかどうかは疑問が残る。 ポイントは、評価研究は包括性(知りたいことが過不足無く調査できているか?)と妥当性(評価が妥当な手段で実施されているか?)が重要となるが、包括性に疑問が残る状態となっている。また、調査結果が新しい視点をもたらすものかどうかもポイントとなるが、現状では採録に十分であるとは言えないと考える。 ・有用性 新規性と同様で、包括的な評価研究であり、新しい視点を提供するものであれば有用であると考えられるが、現状ではその段階には至っていないと考える。 ・論文の記述の質 6ページという制限のある中での論文であることを十分に理解しているが、一方で操作手法の具体的な内容が記述されていない。どのように3次元オブジェクトを選択し、どのように移動して、どのようにスケール操作をするのか。今回の実験ではオブジェクトのリリース操作は評価されていないようだが、実際にはリリース操作がなければオブジェクトを手放すことはできない。また、複数のオブジェクトが存在するなかで、一つのものを選択するなども十分な操作であるが、これもどのように行うことができるのか、できないのか、検討されているのかどうかも分からなかった。

この研究をよくするためのコメント

調査研究という方向性を維持するのであれば、類似手法を十分に調査し、できるだけ多くの手法と検討を行うことが重要となる。技術的に新規な手法を目指さないのであれば、包括的な評価研究は(WISSの対象ではないだろうが)他の学会では高い評価で受け入れられるだろう。


査読者2

総合点

5: 採録

確信度

1: 専門外である

採否理由

本論文は、MR におけるオブジェクト操作において、WiM 手法に着目してその有効性を報告した。 WiM手法はMRにおいて適用されたことがない点に新規性があり、評価実験を通してその有用性が確認されている。論文の記述及びデモビデオも分かりやすく、正確である。 実験の結果、縮小オブジェクトの直接操作におけるメリット(オブジェクトの探索、移動が得意であり、身体的負担において有効)とデメリット(スケーリング操作が困難)が示され、読者に対して有益な情報を提供している。 以上が評価の根拠である。

この研究をよくするためのコメント


査読者3

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

著者らはMRデバイスを用いて、実尺オブジェクトのレイキャスト操作と縮小オブジェクトの直接操作を比較した。 ・新規性 本文中にも記載されているようにWiM法はVRなどで、広い空間を把握することや物体移動で用いられています。MRでは、物体配置をする際にWiMを活用した事例は多くはなく、今回得られた知見も有益だと判断しました。 ・有用性 実験では「操作時間」「移動時間」「探索時間」で有意差が見られた一方でスケール時間に関しては差は見られませんでした。 WiMは本文にも記載されているように、VRなどすでに使用されている技術です。そのため、MRでも身体的負担が軽減され、スムーズになることは予想ができます。 著者らは実験を、物体配置に関するWiM法の長所や課題を明らかにしました。 さらに考察にあるようにデバイスの視野角による制限が、結果に影響している可能性を示し、今後の研究の注意点や設計の指針を示せていると思います。

査読者4

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

本研究は、MR技術による部屋のレイアウトデザインの際に、実際の部屋サイズでの仮想オブジェクト配置の代わりに、ミニチュアサイズでの物体操作(移動、拡大縮小)を用いる手法を紹介している(おそらく、建物建築の前段階でミニチュアを作る工程から着想を得ていると思われる)。 システム構築の際には、Hololens2をベースにしているため、技術的な新規性は少ない印象です。また、比較実験によって提案法の有用性を示していますが、実験の設定で気になる点がありましたので、それらについて記載させていただきます。 1. 比較手法について 今回の提案手法の核は、主に二点であると解釈しています。 a) 「ミニチュア」を用いること(移動範囲の削減) b) 「指先の操作」による物体移動(直感性の向上) しかし、今回の実験で用いた方法は C1. 実尺オブジェクトのレイキャスト操作 (aもbも使わない) C2. 縮小オブジェクトの直接操作 (aとbを使う) の二種類となっているため、比較対象が不足している印象です。 私個人としては、比較方法として新たに二種類 「C3: 縮小オブジェクトでのレイキャスト操作(aのみ使う)」 「C4: 実寸オブジェクトでの指先操作(bのみ使う)」 を追加し、実験したほうが本研究の2つの提案技術の優位性を正確に示せると思います。 (おそらく、C4は良い結果が得られず、C3はまあまあ良い結果が得られることが予想されますが) 2. 実験結果の考察について 上記の内容と被ってしまいますが、比較方法が不足していることから 現状の結果ではC1での「頭の動き(画角)」が、実験結果に大きく影響してしまい、ミニチュアが良いのか、レイキャスト自体は良いのかの判断ができていない気がします。 またハンドトラッキングの精度によって操作自体の優位性の検証ができない場合、「モーションキャプチャのマーカを指先につける等」を行い、操作方法自体の優位性を先に検証したほうが良いのでは?と思います。 3. 実験等で用いた部屋データ。 今回は非常に簡単な空間に限られていますが、実際の部屋のレイアウトを想定すると、本システムでどの程度対応可能なのか、が疑問です。 例えば、 「物体同士(例:スキャンされた机と仮想の花瓶)との衝突が考慮されるのか」 「指先が机をめり込んで設置できてしまうのか」 「設置した個所が斜めだった時には傾いて設置されるのか or 坂を転がって落ちるのか」 など、複雑なシーンになった際にミニチュアの細かい箇所に設置できるのかや、ハンドトラッキング精度がどこまで向上すればよいのか(想定される操作レベル)の考察が必要になるかもと思いました。

この研究をよくするためのコメント

- 図5と6で分散値や、有意差検定の結果などを掲載しても良いかと思います。 - 部屋のレイアウトの話をするなら、VR技術によるシステムも引用するといいかもしれません Sugiura Yuta, Ibayashi Hikaru, Toby Chong, Daisuke Sakamoto, Natsuki Miyata, Mitsunori Tada, Takashi Okuma, Takeshi Kurata, Masaaki Mochimaru, and Takeo Igarashi. "Dollhouse VR: a multi-view, multi-user collaborative design workspace with VR technology" ACM SIGGRAPH VRCAI 2018