査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

査読者間およびPC委員会での議論の結果,当該システムには[13][14]からの拡張に対して進歩性があることが評価されました.したがって,評価が欠如している欠点はあるものの,その運用の適切性や意義について議論することには参加者にも一定の価値がある結論となりました.これに鑑み,判定はショート採択となりました.

[メタ] 査読時のレビューサマリ

使わなかった知識である,文章編集作業およびプレゼンテーション資料作成の途中状況を「知識断片」と呼び,それらを残しておいて参照可能とすることで,知的創造活動の支援のために利用するシステムを提案する論文です. 当該手法は,著者の論文[13][14]で概念はほぼ包含されており(この点については,コンセプトの新規性を認めていた査読者も同意しています),それらの概念を実装する方法を改善・拡張(具体的にはテキストのみだったところを画像編集に拡張,知識断片の表示手法を改善)したものであると考えられます.そもそもの「知識断片」を援用する考え方は有用性が認められ,査読者もその価値を認めています. さらに,本論文における提案されたシステムは,既存の研究に比べ,提案されている概念を実証できる仕組みとしてより強固なものになっていることが伺え,システムそのものの有用性は説明できそうであり,この点には一定の価値があるといえます. 一方で,この観点での有用性,つまり適用範囲の拡大が,既存の概念をどのように拡大変容させたか(あるいはどのように適切な実証がなされたか)については,実践的な評価がないと議論が難しいと考えられます.にもかかわらず,本稿には評価は一切述べられていないため,この新しいシステムが[13][14]とどのような差異を生むのかを判断することは難しいといえます.

[メタ] その他コメント

総合点

3: どちらかと言えば不採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

使わなかった知識(作業途中状況)の断片を残しておいて参照可能とし,知的創造活動の支援のために利用するシステムを提案する論文であると読み取りました. 本論文は,土台となっているシステムであるText Knowledge ComposTer[13][14]の,プレゼンテーションアプリケーションにおける描画作業や画像に対する拡張であると考えます. しかし,本論文は「単に画像に拡張した」にとどまっているように見え,このままでは本質的に[13][14]と同じに見えます.議論を期待したい箇所は大きく2点あり: ・テキストに比べて画像(描画)にどれだけ知識断片が適切に埋まっているのか.あるいは,知識断片が埋まっているとしたら,それはどのような創造作業において埋められるものなのか, ・図3のような画面で作業領域を埋めてしまったときに,それを「参照しながら」作業をする環境が適切に提供できるのか.これは単なるディスプレイサイズの問題かもしれませんが,一覧性が下がると,せっかく提示された情報が読めなくて使えない,という問題を起こしそうな気がします. これらに対する積極的な議論が必要であると考えます.

この研究をよくするためのコメント


査読者2

総合点

5: 採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

本論文は,メモ書きや図表など断片的な情報の蓄積し,蓄積された情報を2次元空間に配置して整理する環境,およびそれらの情報を活用してプレゼンスライド/ドキュメントを作成する環境が統合され,自由に行き来しながら作業を行うことのできる創造活動の支援システムを提案しています.提案手法の評価等は行われていないものの,システムの完成度が非常に高く有用性も認められます. 一方で,本研究の目的が「創造活動を行うユーザに対する支援」であるのか,「システムの機能により記録されたログから創作活動を分析」であるのかが不明瞭です. システムの基本的な説明や 4?5節の議論・まとめでは,主に創造活動の支援システムの側面を中心として述べられていますが,イントロダクションでは, 「創造活動時に再活用される知識断片の特徴について,明らかとなっていないことか゛多くあり,実際に知識断片を収集し活用される様子を観察・分析する必要か゛ある.」 「これまて゛実態を把握することか゛困難て゛あっ た,知識断片の生成から活用まて゛の一連のフ゜ロセス を分析することか゛可能となる.」 といった記述があり,分析がメインであるようにも読み取れます. また「創造活動の支援」のための提案されていますが,本文中からは主に研究のアイデア出しから,論文執筆・発表資料の作成のためのシステムであるような印象を受けました. その他の創造活動(小説の執筆など)様々な場面でも活用が期待されるシステムですので,是非今後の展開や具体的な活用事例についても議論してほしいと思います.

この研究をよくするためのコメント

本論文を執筆する上でのシステム使用と思われる活用例が図中に示されていましたが,こうした具体例を交えながらの説明があると,よりわかりやすくなると思います. 特に図4のログの例や,動画内のシステム説明は「テスト」や「ポータル1」というように意味のない文字列が記入されているだけで非常に分かりづらく,もったいない印象を受けました. 完成度の高いシステムですので,是非その良さが効果的に伝わる説明があると良いと思います.


査読者3

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

本研究では、ある一つの話題に基づいてプレゼンテーションや文書などの複数のファイルの作成を行うことを支援することを目的として、「知識断片」と呼ばれる断片的な情報を蓄積・編集・管理を行う統合的なシステム「Knowledge ComposTer」の設計と実装を行っている。このシステムにより、「知識断片」の再活用が促進されることが期待される。 既存システムにもこのような断片的な情報を再活用することを支援するものは存在したが、著者らの研究が既存研究と異なる点は、ユーザが一旦は書き出したものの最終的に採用せずに削除した知識断片(=不用知)も含めて再活用を促す点にあると理解した。ただし著者ら自身の既存研究 [14] との差分は本文中であまり明確に議論されているとは言えず、これと比較して新規性が大きいとは判断しづらい。 現時点では実験がまだ行われていないものの、このようなシステムによって、システムの有用性の評価とは別に、次のような学術的な問いに答えることができる可能性がある点が面白い。 - どのような不用知が生み出されているか - どのような性質の不用知が再活用されうるか - 不用知の再活用によって創造活動が性質がどのように変わるか 以上より、新規性の大きさには疑問が残るものの、本研究には大きなポテンシャルがあり、採録が妥当だと判断する。 ただし、本研究の本質的な部分は(WISSの多くの発表とは異なり)システムの設計そのものよりも実験を行うことによって得られる知見にあると考えられるため、WISSにおいて十分に有意義な議論ができるかという点においては判断が難しい。採択された場合、WISS当日には、上記のような学術的な問いに答えるために、どのような実験を設計すれば良いのか、あるいはより具体的な仮説としてどのようなものが立てられるのか、などの議論を行うことを期待する。

この研究をよくするためのコメント

タイトルや概要にもある「継続的に」という言葉が捉えにくいため、別の言葉で置き換えるか、あるいは具体例を通じてその意味を(できるだけ早い時点で)説明して欲しいと感じた。 概要一文目において、本研究のスコープがわかりにくく混乱した。本研究で対象とするシナリオ(ある特定のトピックについて、複数のプレゼンテーションファイルあるいは文書ファイルを作成すること)を明示的に記述することで、ありとあらゆる創造活動(油絵の制作などを含む)ではなく、特定の創造活動のみを対象にしているということを明示することを勧める。 第一著者が勉強会向けに本システムを試用した事例は重要であるため、本文あるいは当日の発表で詳述して欲しい。 知識断片の再活用は、ユーザが常に自発的に行うものべきものなのか、それともシステムがユーザに対して積極的に再活用を促すような提案を行うべきなのか、という観点で今後議論を深めていっても面白いかもしれない。 特に不用知であるような知識断片には、再活用性が高いものから低いものまで混在していることが想像される。将来的には、知識断片から、その再活用性の程度を自動的に推定できれば、より効果的なインタラクションを設計することができるかもしれない。

査読者4

総合点

4: どちらかと言えば採録

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

提案手法は、創造活動を支援するシステムとして、知識断片(テキストと画像)を文章形式、プレゼンテーション形式、ホワイトボード形式に統合的にまとめられるシステムを提案している。個々のサブシステム自体は、標準的な文章やプレゼンテーションのように表現できるシステムだが、相互の情報をブロックとして貼り付けることができることをコンセプトとしている。 提案システムの個々の機能だけで見ると、新規性や有用性の貢献は少ないと考えられるが、これらの断片を合成できるというアイディアには一定の新規性があると考えられる。 実装はよく完成されており、どのように利用するのかを理解できる状態である。 ただし、応用内容(どのようなコンテンツやシーンに対して適用するか)による部分も考えられるため、WISSでの議論として良い議論ができると考えられるため、採録ないし議論枠での採録が妥当と考えました。

この研究をよくするためのコメント