システムとして新規性と部分的な有用性が認められた一方で、有用性の記述の改善(R154、R129)、カラーバリエーションの探索手法との比較検証もしくは比較した考察の必要性(R129)、その他の記述に関する改善(R85, R154, R129)が指摘されています。 査読者R154のコメントには「採録条件」として記述されている点について、今回はそれを採録の条件とはしないことを査読者間で合意しましたが(※)、できる範囲でご対応いただけると、論文の質が向上することが期待されます。また特に、査読者R129のコメントは「カラーバリエーションの探索手法の先行事例への言及」等、重要な指摘が多いのでよくご検討ください。 ※採録条件ではないが、条件として考えうる重要な改善項目だとお考え下さい。
採録の条件とはしませんが、全ての査読コメントに対し、可能な限りご対応いただけることを期待します。
5: 採録
2: やや専門からは外れる
本論文は、"lighter"等の色に関する単語(修飾語)を用いて、色の編集を行う修飾語スライダの提案である。 手法自体はHanら[4]による提案がもとになっているが、複数のスライダを生成して色を調整するインタフェースを提案し、ユーザ評価によりその有効性を検証した点で新規性がある。ユーザ評価の結果、色の発見や発想に関する質問に対して、通常のRGB/HSV スライダよりも優れた評価を得たことから、有用だと判断できる。 論文の記述は分かりやすいし、技術的な正確性に基本的な問題はないと感じるが、 以下のような改善が可能である。 ・Word2Vecを,GloVe100-dに置き換えた理由に計算速度とあるが、具体的にどれくらい速度が向上し、それがどの程度、必要なのかが不明(可能ならば性能がどのように変化して、それが手法差し替えに影響がないのかどうか検証できるとよい) ・Winn とMuresan のデータセット[19] を用いてネットワークを学習したとあるが、具体的にどのようなデータを用いて、どう学習したのか不明。選別した修飾語のみに対して学習したのか?データとしては、rと修飾語とtのペアを何点使い、どのようなロスを計算して学習したのかを明確にすべき。 ・3.2.1の領域がどのように選択されるのか不明。もともと領域が分割されて定義されている画像を用いた? ・4.2「(但し,アーティストがRGB/HSV スライダによる色編集操作に慣れていた点が影響している可能性がある).」とあるが、被験者はアーティストと素人に分かれているので、実際にその二つのグループに差異があるかどうかで部分的に検証可能ではないか? また、以下の小さな修正が可能である。 ・1章「デジタルパレットを開発しました.」→文体が統一されていないので修正。 以上から採録として判定した。
5: 採録
1: 専門外である
■新規性
「ユーザが頭の中で想像する色を見つけやすくすること」そして「イラスト全体のバランスを考慮しながら色を調整しやすくすること」を狙ったUIである「修飾語スライダ」が提案されています。このUIでは、イラスト中のユーザが指定した領域の色とユーザが指定した修飾語に基づいて、その色と修飾語に対するカラースライダを自動生成し、ユーザはスライダを操作するのみで、領域の色を修正できます。また、複数領域を一括指定する機能も併せて実装されています。実装されているUIも、既存技術を使いやすくしたうまいUIとなっています。また、提案UIは既存研究、既存システムには存在しないように思います。
■有用性・正確性
提案UIはイラストの編集作業において使いやすそうであり、また従来のUIにはないものであるため、イラストの作成にも貢献すると思われます(近い研究、例えば、キーワードで色を指定するUIとか、指定した色から何か候補色を推薦するというUIはありそうな気もするが思いつかないです)。ただし、16名の協力を得た被験者実験が行われているものの、これらについては、有望性を示す結果は出てはいますが、検証される所にまでは至っていません。そのため、有用性の主張の正確性(信頼性と言った方が良いかも)は不確かです。
■論文自体の記述の質
論文は、記述不足と細かい表現の揺れはあるものの、分かりやすく明確に書かれています。ただ、ストーリーの一貫性と、研究の再現性をそれなりに確保するように、論文を修正すると良いと思われます。以下に論文を読んでいた際に気付いた事を示します。 指摘(ストーリーの一貫性) 論文の1ページ目(概要、はじめに)を読むと、研究やシステムの目的は以下のふたつに見えます。 ・ユーザが頭の中で想像する色を見つけやすくすること ・イラスト全体のバランスを考慮しながら色を調整しやすくすること そうだとすれば、論文ではまずこのふたつの目的が達成されたかどうか、とか、達成されそうなのかという可能性を議論すべきであり、その上で、色々と見つかったポジティブな側面を述べて、今後の研究の方向性を示すと良いと思われます。ただし、現時点での「1. はじめに」の後半と「4.2 結果」の記述はそうは見えないので、気になります。 指摘(記述不足) ・「3.1 色変換モデル」に「我々は,良好な結果が得られる修飾語を選別し,リスト化した (表 1).」とありますが、どうやってこれを行ったのかを書くと、再現性、信頼性、有用性が高まると思われます。また、「良好な結果」の意味もかみ砕いて書くと良いと思われます(これら以外の修飾語だとどうなるのか想像がつかないのです)。 ・「4 ユーザテスト」について - どこかに実験設計を書いてください(WISSは萌芽的な研究発表の場でもあるので、荒削りな実験でも予備実験としてなら価値があるので問題無いと思っていますが、きちんと書く必要はあると思います)。 - 被験者間実験か被験者内実験なのか、被験者内実験なら順序効果の除き方。 - 図6の4個のイラストを全員に両手法で編集して貰ったのかどうか、どのような順序で編集して貰ったのか。 ・被験者に使って貰った「従来のRGB/HSV スライダ(ベースライン)」の図を掲載してください。 ・「素人ユーザ8名」の属性、特に色空間に関する知識を有しているかどうかを書いてください。というのもその属性次第で結果の解釈が異なってくると考えられるからです。例えば、この8名がコンピュータサイエンスを専攻している大学院生であれば、色空間に関する知識をかなり有していると考えられるので、結果もそれに依存していると考えられます。 ・「4.1 手順」にある「七段階のリッカート尺度」の数字のレンジ(1-7でしょうか)と各数字の意味を書いてください。 ・「4.2 結果」の分析において、「四名の被験者」や「六名の被験者」というように両被験者を混ぜずにアマチュアアーティスト○名、素人○名と分けて書いてください。 指摘(その他) ・漢数字表記とそうでない表記が混在しています。点検の上、表記を統一すると良いと思われます。 ・論文の柱に「WISS 2020」とあります。 ・「3.1 色変換モデル」の説明に「変換ベクトル」とありますが、Hanら[4]では modifier vector なので両者にやや不一致が生じています。また、「修飾語から離れた色」には、まったくかけ離れた色も含まれるので、説明の仕方を工夫すると良さそうです。 ・「3.2.3 サポート機能」に説明されている「Extendボタン」はどこにあるか説明すると良さそうです。(図4にあります?)同様に「スライダの更新機能」の起動方法を書くと良さそうです。
■採録の条件
上記に指摘に対応すること。
・使っていない状態での感想ですが、最初からスライダの右側を+1.0よりも大きめ(例えば+2.0)にしておくと「提案された色はイメージは近いけどもう一声」という場合に対応しやすくなるかもしれません。 ・表1にorangeとvioletという色を直に表す語が含まれているのが気になりました。使い勝手の面ではこういったものがあると良さそうに思われるのですが、一方で、論文の主張である「ユーザが頭の中で想像する色を見つけやすくすること」には結びつかないように思われるからです。 ・表2に示されているアンケート項目が研究の目的が達成されているかどうかを検証するために相応しいかどうかが不確かに思われました。
4: どちらかと言えば採録
2: やや専門からは外れる
ユーザは修飾語を指定することで、それらに対応するカラースライダを自動生成するシステムを実現し、ユーザテストを実施した。 ・新規性 2.3自然言語の修飾語を用いたパラメータ操作 で述べられているようにこれまでにも言語情報を用いた色情報の編集技術は提案されています。それらと比較し、実現方法や提案UIは新規性があると判断しました。 ・有用性 1.はじめに に記述されているように初心者ユーザにとって、パラメータ値に対する色を把握することは困難です。特に初心者の場合は「ここをもっと、明るくしたい」と思っても、明るくするための調整に時間がかかることもあります。ユーザテストでは有意差はなかったが、色空間の探索に優れているという回答を得られていることから、提案システムが色編集に有効に働くと考えられます。
ウェブデザインは、ディレクタや発注者からのコメントをもらうシーンも存在します。特にそのようなデザインに関する知識がない場合は修飾語を使って「ここをもっと暗く」などの抽象的な指示をしがちです。 提案システムは、デザイナ自身の制作支援だけではなく、デザイナ以外の決定者の指示をスムーズに反映するシステムに応用できると期待しています。
2: 不採録が妥当
2: やや専門からは外れる
色のカラーバリエーションを探索するシステムは古くから存在していると思いますが,色の修飾語を選択してスライダーで編集するという方式は,ありそうでなかった新規性があるかもしれません. (ただ,査読者はこの分野の専門家ではないので確信はありません.) 実装については丁寧に記述されていると思います. 一方,「カラーバリエーションの探索手法としての有用性」「ユーザテストの妥当性」等の点で疑問が残るため,評価は不採録よりとしました. 以下,主にネガティブな理由の詳細を記述します. ◆カラーバリエーションの探索手法としての有用性の疑問 本論文では参考文献の本数は多く引用されていますが,カラーバリエーションを作るという観点からは,基本的にユーザが主体的に細かく色を調整する手法のみを紹介しており,偏っていると感じます.例えば,(1)全体的な色合いをカラーホイールなどで段階的に調整する方法や,(2)システムが提示した候補の(ユーザによる)選択を繰り返す方法,等に対する言及がありません. (1)について,例えば,Adobe Illustoratorでは,「オブジェクトの再配色」という機能で,イラスト全体の色彩をカラーホイール等を用いて調整できる機能が搭載されています.(最初のビデオが分かりやすいです.) イラストレーターでオブジェクトを再配色: https://helpx.adobe.com/jp/illustrator/how-to/create-color-variation-illustration.html 査読者もこの機会に少し試してみたところ,この機能では選択範囲の代表色(?)を抽出し,各代表色の色環上の距離の固定/解除を随時変更する(ハーモニーカラーと記載)ことで,一つのカラーホイール上で画像全体の色調整や個別部分の色調整がスムーズにできるようになっているようです. こうした手法と比較すると,提案手法の修正箇所選択→修飾語を選択→色を調整というのは(現在のRGBスライダー等を使う方法と同程度以上には工数が増えるため)手間が掛かるように思われます.こうした手法についても,論文中でも言及し,提案手法と比較/議論されるべきかと思います. (2)こうした対話的な手法以外にも,システムがカラーバリエーションの候補を提案&ユーザに提示するような研究も古くから存在していると思われるので,何らかの言及をするべきだと思います. 査読者は専門家ではないのですが,例えば以下のような論文やその参考文献が参考になるかもしれません. 参考: 輝度のコントラストと設計特性を考慮したインタラクティブ進化的計算による配色法 https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201702228359796916 (※日本語の概要ページを貼りましたが,英語論文のようです.) ◆ユーザテストについての疑問 - 比較対象がRGB/HSVスライダーのみというのは適切なのでしょうか?前述したようなカラーホイールと色同士の拘束関係を用いた手法も製品レベルで搭載されているようですので,本来は比較された方が良いのではないかと思います.(予備的な実験なら問題ないと思うのですが,実験の目的で「本手法の有用性を評価する」としか言われていないため,疑問が残ります.) - 評価指標が主観評価のみに限定されていますが,タスク完了までの時間やスライダーの操作回数等の定量的な指標も示された方が良いと思います.また提案システムでの修飾語の選択回数等も示していただけると,議論できる内容が充実すると思います. - やや細かい点ですが,本システムで用意されている色の修飾語のリストは英語ですが,被験者は英語を母国語とするユーザだったのでしょうか?もし違う場合,表1を見ると,例えば日本人ではニュアンスの解釈が難しそうな語も散見されるため,適切にシステムを利用できたのかやや疑問を感じました.(例えば,orange / yellower 等は分かると思いますが, mid / off / richerなどは解釈が難しそうに思います)この辺り,どのような語が選ばれる傾向にあったかなども議論されるとよいのではないかと思います.
◆その他のコメント. - 表1の修飾語の候補から,図4下部のようなシステムに提示される語がどのように選択されているのか気になりました.簡単でよいので記述された方が良いと思います. - ごく一部文末が丁寧語になっているようです. 1章「開発しました.」 謝辞「受けたものです.」 - 図2のRGBスライダーは自明なので,削除してもよいと思います.
論文の質、及びシステムの完成度に基づき、ショート採録としてふさわしいと査読者全員の意見が一致しました。査読では、新規性がありまた有用性が部分的に確認されている点も評価されました。今後の研究のご発展を期待しています。