教育現場と連携しつつツールを開発している点は評価できるものの、参考文献の参照の不備、図表・論文の可読性の低さ、および評価実験の組み立て方の正当性に疑義がある点が査読者間で共有されました。
これらに関する改善を採録条件とし、ショート採録(採録条件あり)といたします。
採録条件は以下です:
(1)既存技術との比較の追加(論文の引用が少なすぎる点の解消)
・zooming user interface
・北島,岩下:PCによる柔軟な講義ノート作成システム,日本知能情報ファジィ学会,pp.73-73 (2010).
・重森,倉本,渋谷,辻野:講義への集中を目的としたノート作成支援システム, 情報処理学会研究報告, Vol. 2004-CE-75, No. 3, pp. 17-24 (2004).
・Ching, Chi-Lan, Jay, Hao-Chuan: NoteStruct: Scaffolding Note-Taking While Learning from Online Videos, CHI EA'19, pp.1-6 (2019).
(2)実験計画の正当性の議論の追加
・教育現場では教師の手元計算機に加えて電子黒板デバイスやプロジェクタといった大規模情報提示デバイスも活用されている。手元計算機(今回の場合はiPad)のみによる視認性の検証を行った点の正当化の議論。
・提案システムは,iPadとデジタルペンを利用することを想定していますが,実験ではデジタルペンだけではなく,指で書いた文字や活字を使ったノートで把握のしやすさを比較しています.提案システムでデジタルペンを使うことを想定したにもかかわらず,なぜ文字フォントの比較を行ったのか,の正当化の議論。
・40名分のノートのデータを,問題の解き方別に分類するというタスクについても,なぜそのタスクを採用したのか、の正当化の議論。
・本論文の背景とターゲットは小学校の算数における授業ノート作成であるのに対し,評価実験では21-23名の男女13人と,ターゲットと年齢層が離れている点についての正当化の議論。
(3)図表の視認性の向上
・図が全般的に小さく読みにくいです。40画面の一覧表示など、視認できないことを示す場合はよいのですが、読者に文字を読ませる前提の図については、読める文字サイズにしてほしいです。またreviewer111さんのご指摘にご対応ください。
(4)論文の可読性の向上
・実験について、どういう作業をするかを概説してから実験データ作成の方法を述べたほうがよいです。現状だと「分類」という作業の意味が初出からしばらくわからないです。
6: ショート採録を強く推す
3: 自身の専門分野とマッチしている
本研究は、小学校教員が児童用ノートの準備をスムーズにおこなえるようにしたツール開発を扱うものである。「セクション」に分けることで、集約表示による閲覧の一覧が可能になった。
よく日本の教育で使われるノートの構成方法をツールに落とし込み、教員の作業負荷を軽減を図った点に一定の新規性が認められる。
さて、本ツールは「セクション」に分けることにより、一覧表示する場合の適切な切り取り単位が定義でき、一覧表示機能の実現に結びついたものと思われる。しかし各児童に質問を提示して、定形の「入力欄」にかかれた内容を一覧表示する機能は、SKY MENU CLASS ( https://www.skymenu-class.net/2019/function02-07.html )などの既存の教育向けツールで一般的に現場で用いられているので、「一覧表示を行う際に視認性を確保できる分割数はどのくらいか?」という問いかけは、本研究特有のものではないように感じる。
また、分割数問題は、「全員の様子の俯瞰する」と「詳細に内容を把握する」のトレードオフの問題であるため、zooming user interfaceを用いて俯瞰ビューと詳細ビューを連続的な倍率で切り替えるアプローチも考えられる。
さらに、上記URLにもあるように、教育現場では教師の手元計算機に加えて電子黒板デバイスやプロジェクタといった大規模情報提示デバイスも活用されている。手元計算機(今回の場合はiPad)のみによる視認性の検証はどの程度有効なのか疑問がのこる。
以上より、「セクションに分けるノートテンプレートをたやすく作成し一覧表示機能をつけたツール提案」に対し、「一覧時の分割数の最適値はなにか」という検証に多くの紙幅を割ている本原稿は、その検証自体には何らかの独立した価値が見受けられるものの、一本の論文としてはちぐはぐな印象をうけた。
著者らが主張する2点の貢献:
・提案システムで様々なノートのレイアウト作成が可能であることを確認
・閲覧ビューの分割数の評価
これらのうち、前者を評価し、このような総合点とした。
なお教育現場において教員の声を取り入れた教材の準備ツールとその現場検証の研究として、
栗原 一貴, 伊東 乾, 五十嵐 健夫: "編集と発表を電子ペンで統一的に行うプレゼンテーションツールとその教育現場への応用," コンピュータソフトウェア, Vol.23, No.4, pp.14-25, October 2006.
が挙げられる。教材用のノート・プリント作成と、児童への提示用の情報レイアウト作成は不可分の作業であると考えられるので、参考にされたい。
また、zooming user interfaceを採用した教員・学生の議論ツールの研究として、
栗原一貴, 望月俊男, 大浦弘樹, 椿本弥生, 西森年寿, 中原淳, 山内祐平, 長尾確, "スライド提示型プレゼンテーション方法論の拡張手法を定量的に評価する研究," 情報処理学会論文誌,Vol.51, No.2(2010),pp.391-403.
が挙げられる。「ノートのセクション共有」である本提案に対しこの研究は「模造紙の共有」であるため情報の構成が違うものの、一覧表示における分割数の議論とUIデザインについて本提案と通じるところがあるので、参考にされたい。
図が全般的に小さく読みにくいです。40画面の一覧表示など、視認できないことを示す場合はよいのですが、読者に文字を読ませる前提の図については、読める文字サイズにしてほしいです。
実験について、どういう作業をするかを概説してから実験データ作成の方法を述べたほうがよいです。現状だと「分類」という作業の意味が初出からしばらくわからないです。
7: ロング採録に反対しない
2: やや専門からは外れる
新規性:
紙のノートを使った学習の形態を踏襲しながら,教師が児童の学習状況を把握できるデジタルノートを設計している点に新規性がある.
有用性・正確性:
デジタルノートにおける画面分割と文字フォントの違いによる閲覧のしやすさについての評価実験が行われている.また,教師へのインタビューによってデジタルノートの改良点を明らかにしている.実際の教育現場からの意見を取り入れながらツールを設計している点で有用性が高い.
論文自体の記述の質:
評価実験で得られたデータを,表ではなく,グラフにまとめられるとより見やすくなると思った.
デジタルノートを設計する上で,実際の教育の場で用いられているセクション分けやノートのレイアウトを調査し,それを踏襲している点が,インタフェース設計の仕方として興味深いと思いました.
評価実験や教師へのインタビューから,児童のノートの適切な表示方法を調べ,今後の改良案を洗い出している点も評価できます.
評価実験の方法については若干わかりにくい点がありました.
提案システムは,iPadとデジタルペンを利用することを想定していますが,実験ではデジタルペンだけではなく,指で書いた文字や活字を使ったノートで把握のしやすさを比較しています.提案システムでデジタルペンを使うことを想定したにもかかわらず,なぜ文字フォントの比較を行ったのか,意図について読み取れなかったため,詳しく記載されることをお勧めします.
また,40名分のノートのデータを,問題の解き方別に分類するというタスクについても,なぜそのタスクを採用したのかがわかりませんでした.実際の教育現場においても,教師が児童のノートを問題の解き方ごとに分類することがよく行われている,あるいは,被験者には児童のノートに全て目を通してもらう必要があった等の,タスクを採用した理由を記載してください.
5: ショート採録が妥当
2: やや専門からは外れる
小学校の教育現場で使用可能なデジタルノートシステム「SectionsNote」を提案しています.SectionsNoteでは,教師がレイアウトを設定することで,タブレット及びタッチペンを用いて児童が教師が設定したレイアウトに従って記入・閲覧可能となるシステムを実現しています.
【提案されている内容の新規性】
デジタルノートについては関連研究が多く,新規性は低いと思います.一方で,教師が設定したセクション(テンプレート)を閲覧する時に,特定のセクションのみを表示することが可能な点については,新規性があると思います.
【有用性・正確性】
ノートのとり方がわからない小学生(初心者)に型を教示し,学習させることに有用性があると考えます.提案システムに類似する研究として以下の研究[1], [2], [3]等が挙げられますが,参考文献には含まれておらず,正確性がやや低いと考えます.
また,本論文の背景とターゲットは小学校の算数における授業ノート作成であるのに対し,評価実験では21-23名の男女13人と,ターゲットと年齢層が離れている点についても正確性に疑問が残りました.
[1]北島,岩下:PCによる柔軟な講義ノート作成システム,日本知能情報ファジィ学会,pp.73-73 (2010).
[2]重森,倉本,渋谷,辻野:講義への集中を目的としたノート作成支援システム, 情報処理学会研究報告, Vol. 2004-CE-75, No. 3, pp. 17-24 (2004).
[3]Ching, Chi-Lan, Jay, Hao-Chuan: NoteStruct: Scaffolding Note-Taking While Learning from Online Videos, CHI EA'19, pp.1-6 (2019).
【論文自体の記述の質】
全体的に図が小さく,図内の文字の可読性が低くて読めません.図を大きくするか,図内の文字が読めるように表記の工夫をして下さい.以下に記述についての指摘を列挙します.
p2. 図2が小さくて可読性が低いと思います.表と本研究の位置付けを別にして記載されると良いと思います.
p2. 図3の文字が小さくて可読性が低いと思います.図を大きくして可読性を上げて下さい.
p2. 2.2節内(右段落)「利点をいかしつつ」→「利点を生かしつつ」
p3. 図4が小さくて可読性が低いです.セクション名がわかるように図を大きくするか表記の工夫をして下さい.
p4. 図7も上記指摘同様,小さくて文字の可読性が低いです.
p4. 5.3節 21-23歳までの男女13人の被験者は教師役という理解であっていますか?そうであればその旨を明記して下さい.(児童側なのか教師側なのか不明です.)
p4. 図7の(b)では4分割にしか見えません.何故4-6分割と記載しているか再度確認して下さい.
p5. 図8も上記指摘同様,小さくて文字の可読性が低いです.
p5. 表3と表4は横並びになっていますが,可読性向上のため,大きくして縦並びにし,紙面上部に配置して下さい.
実際の教育現場で活用可能かを検証するためにも,教師へのアンケートに留まらず,小学生を対象とした評価実験を行うことで,システムの改善・発展に繋がると考えます.また,議論で記載されていた通り,教師2名の意見を反映したシステムの発展を期待します.
よく日本の教育で使われるノートの構成方法をツールに落とし込み、教員の作業負荷を軽減を図った点に一定の新規性が認められる。一方で評価方法には疑問が残る内容となっている。
著者らが主張する2点の貢献:
・提案システムで様々なノートのレイアウト作成が可能であることを確認
・閲覧ビューの分割数の評価実験
これらのうち、前者を評価した。
以上の結果から、[ショート採録]/と判断された。