ロング採択でアクセプトすべき論文として査読者の議論は一致した。
本論文は、Norimaki Synthesizer[4](ここでは、仮にのり巻き型と呼ぶ)の発展として
であり、無味ゲルの追加、センサキャリブレーション、
味の編集・エフェクト・イコライザ、三角形ゲル(ここでは、仮にピザ型と呼ぶ)による実装が今回新規での提案である。
[4]からみても数多くの発展がなされていて、それだけでも十分に採録に値すると考えるが、
論文の構成に問題があるため、条件付き採録と判定した。
論文冒頭では、三角形ゲルのみが新規提案であるように述べられているが、
その一方で、論文全体の構成として三角形ゲルに関する説明が占める割合が非常に少ない。
また5章で「6つのゲルが集中している一箇所にのみ舌を当てられないが 2次元平面上の異なる場所で異なる味が楽しめる構造を検討していきたい」と述べられているように、
三角形ゲルによる実装は、ディスプレイ形状の一種として検討しているなど、
考察や展望として取り入れるレベルでの議論が妥当と考える。
(条件1)
本論文はUIST2020での発表内容が含まれているため、[9]の書誌情報を更新すること。また査読方針より、本文中で適切に言及しすること。具体的には、編集ソフトやエフェクについても[9]に含まれているのであれば、明記が必要と考える。
(条件2)
したがって、論文冒頭でピザ型のみが提案であるとする記述を修正し、本論文での新規提案を明確にすることを採録の条件とする。例えば、形状のバリエーションとしてのり巻き型とピザ型の2種類を述べた上でのストーリー展開とするなど、提案と内容が合致した論文構成とすること。その際、[4]からの差分がどこにあるのかを明確に述べる必要がある(今回の原稿に[4]の内容も含める場合は、査読方針 https://www.wiss.org/WISS2020/review-policy.html を参照)。
(条件3)
条件2と関連するが、論文中でタイトルが意味する「味ディスプレイ」の定義を明記にすること。
のり巻き型とピザ型のどちらも味ディスプレイと呼んでいるが、定義がないまま進むので、どちらが味ディスプレイなのかが不明瞭と感じる。例えば現状では、論文タイトルや冒頭がピザ型にfocusが当たっており、かつピザ型が視覚的な実装となっているから、こちらのみを味ディスプレイととらえられかねない。
(条件4)
査読者116の実験記述の明確化に関する以下の指摘に対応し、いずれの結果であったのか、もしくはそうでないならば正しく明記すること。
・一人での実験によって、醤油の3種類の違いがわかるようになったという記述もありますが、これが「ディスプレイで提示した3種類が区別できるものだった」のか、「ディスプレイで提示した味から、対応する本物を当てることができた」のか読み取れません。
(条件5)
本論文では、キャリブレーションとして、先行研究[3]のデータを使ったモデル化及びパラメータフィッティングを行っているが、キャリブレーションという用語を聞いた際にイメージする、個々人の感覚への違いへの対処まで行っていない。したがって、本用語の定義について明記するか、用語を正しく変更すること(モデル化等)。
(条件6)
誤りを減らすように推敲すること。少なくとも査読者が指摘している「引用文献の誤り修正」は必ず行う。
また、条件2と関連するが、査読者103の「提案手法「味ディスプレイ」が有用であるのかどうか,矛盾した記述が見られます.」のような矛盾をなくすこと。
・査読者116の指摘する、「無味のゲルに「他の5本のゲルに流れる電流の合計を0.5mAから引いた電流」を流すことで刺激量が均等になるのはどの程度確かか」について可能であれば考察を追記
9: ロング採録を強く推す
1: 専門外である
イオン泳動の原理を応用して、基本五味の組み合わせによって任意の味を再現するというアイディアは、新規性高く、有用性の面からも非常に大きなインパクトを持つ。無味のゲルを追加することで、電流の強さを一定に保つというアイディアも素晴らしいと感じた。また、MIDI制御によるエフェクタも大変興味深い。
論文の記述と正確性に大きな問題は感じなかった。
・「青山らによる実験で確認されている[2]」
「(下)味ディスプレイのデータ[2] 食塩水濃度と電流の強さ(正規化済の関係」
「1章で述べた青山らによる実験[2]の結果ある」
は、全て[3]が正しいのではないか
5: ショート採録が妥当
2: やや専門からは外れる
味を合成するディスプレイに関する論文です。筆者はこれまでに基本5味を合成する装置については検討していますが、今回は新たに計測した味センサのデータと、従来の研究で取得している電流と抑制度の関係のデータを突き合わせることで、正しくキャリブレーションされた味提示が出来るようにし、さらに映像と併せています。キャリブレーションは味を正確に提示する上で欠かせないため、本論文の内容は重要です。ただ実験はほぼ行っていないため、どの程度正確に提示できるようになったかがわかりません。一人での実験によって、醤油の3種類の違いがわかるようになったという記述もありますが、これが「ディスプレイで提示した3種類が区別できるものだった」のか、「ディスプレイで提示した味から、対応する本物を当てることができた」のか読み取れません。
本論文は上に述べた指摘点以外に、やや推敲に難があり、例えば引用文献[2]として各所で引用されている論文は青山らの論文とのことですので、[3]になるかと思います。他にp3「結果ある」→「結果である」など。
本論文の中心とはやや外れますが、無味のゲルに「他の5本のゲルに流れる電流の合計を0.5mAから引いた電流」を流すことで刺激量が均等になるのはどの程度確かでしょうか。神経電気刺激は多くの場合閾値現象で、ある電流を超えないと感覚を生じないと思いますので、この単純な制御則で刺激量がどの程度均等に感じられるか気になりました。
7: ロング採録に反対しない
1: 専門外である
本論文では,画面に映っている食品の味を再現できる味ディスプレイを提案しています.6種類のゲルの電流の強さをそれぞれコントロールすることで,基本五味の再現をしている点は,新規性がありWISSでの議論に値する内容であると考えられます.
また,提案手法の味ディスプレイで感じられる味を,味センサの測定結果を用いたキャリブレーションする手法を提案しています.さらに,味ディスプレイの応用として,味ディスプレイで出力する情報を動画に付与する動画編集ソフトや,味情報を加工する味エフェクタの提案もしています.
しかしながら,提案手法「味ディスプレイ」が有用であるのかどうか,矛盾した記述が見られます.
1節第1段落「後述の電源装置における用局部を手に持ち,6つのゲルが集中している箇所に舌をあてると,制御された味を味わうことができる.」
5節第8段落「図1で提示した液晶ディスプレイ一体型の味ディスプレイは,6つのゲルが集中している一箇所にのみ舌を当てられないが,2次元平面上の異なる場所で異なる味が楽しめる構造を検討していきたい.」
また,本論文の記述では「味ディスプレイ(三角形ゲル6つで構成されるもの)」と先行研究である「Norimaki Synthesizer[4]」の違いが曖昧であり,「味ディスプレイ」が「Norimaki Synthesizer[4]」を発展させたものであれば,違いを明確に述べる必要があると考えます.
提案手法「味ディスプレイ」は,半透明で背後の物体を透視できる点を,有用性として主張したいのではないでしょうか?本論文にはこの点に関する言及がないため,冒頭の主張があいまいな論文となっています.
基本五味の組み合わせで任意の味を表現する本技術について、新規性がありWISSでの議論に値する内容である。著者らによるCHI2020EAで既発表のNorimaki Synthesizerを発展させた内容であり、無味ゲルの追加、センサキャリブレーション、味の編集・エフェクト・イコライザ、三角形ゲルによる実装に関する発展がある(部分的にUIST2020で既発表)。Norimaki Synthesizerから多数の発表内容があると考えられ、ロングでの十分な発表と、深い議論を期待する。