査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

本論文の提案する新しい「凝視」の計算手法について新規性があると判断しました。これは、1名ではありますが被験者実験によってもある程度有効性が示されています。一方、1名という被験者の数、かつそれが著者である、ということから信頼性に懸念があることから、ショートとしての採択で合意しました。

[メタ] 査読時のレビューサマリ

査読者のスコアは5,5,7でした。査読者全員が、本論文の提案する新しい「凝視」の計算方法についてその新規性について評価し、論文として採択することには合意しました。ただし査読者2名は、本論文における被験者の数が1名、しかも第1著者と言うことから、評価の信頼性について疑問を呈しています。一方WISSでは、提案手法に新規性があれば、必ずしも評価実験を要求しないということから、もう一名の査読者は3人の中では高い得点を付けました。以上から、総合的にショートとしての採択で合意しました。
なお採択時には、査読者の各コメントを読んで頂き、修正可能な点は修正して頂きたいと思います。

[メタ] その他コメント

総合点

5: ショート採録が妥当

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

本論文は、視線入力によるmidas touch問題を解決するために、「凝縮」の定義を従来の「対象の中に視線座標が一定時間以上留まっている」から「視線座標がある範囲に凝視時間以上留まっている」と変えること、そしてその範囲の計算方法を提案し、実験によりその有効性を主張している。

- 全体として論文の文章に読みづらいところがある。例えば、凝視の定義の仕方が非常にわかりづらい。図1を用いてもう少し簡便な説明を望みたい。

- 本論文の最大の問題点は、被験者が論文の第1著者たった1名だけという点である。最善の注意を払ってフェアに実験を行なっているとは思うが、さすがに被験者1名、それも著者というのは信頼性の点で問題がある。

- 最終的な結論として、「本手法は従来手法と比べ、文章タスク終了時間が、凝視1.0sだとほぼ同じ、間違った対象の選択数が少ない。凝視0.4sでは、従来手法のタスク終了時間が短く、誤った対象の選択回数が増加する、ただし、タスク終了時間が短いのは誤った対象を選択しているからだ」、という主張である。では、画像タスクの場合、本手法の方がタスク終了時間も長く、誤った対象を選択した回数も多い、という点はどのように説明するのであろうか。これも被験者数が少ないことが影響していると考えられる。

- 1.0s、0.4sという閾値の選び方の合理性は何か。この説明もあるべきである。

提案としては非常に興味深く、もしかすると著者の主張するように、本手法は優れた手法なのかもしれない。それだけに、被験者の少なさが残念である。

この研究をよくするためのコメント

上にも書きましたが、被験者数の増加により本手法の有効性を示してください。
また、閾値の選び方を、もし経験的にこの値がベストなのであれば、考えられる理由とともに書いてください。


査読者2

総合点

5: ショート採録が妥当

確信度

2: やや専門からは外れる

採否理由

本論文では,視線に基づく操作において,これまで凝視時間に基づく操作であったのに対し,ミダスタッチ問題の解決案として凝視範囲に基づく操作を提案しています.また,凝視時間・範囲に基づく操作において誤った対象を選択する回数や選択完了までの時間を計測し,その効果の違いを検証しています.

・新規性:
関連研究は引用されており,本研究の狙いも明確です.

・有用性,正確性:
画像タスクにおいて凝視時間の長短に関わらず誤った対象を選択する回数が大幅に減っており,本実験で用いている一般的なアイトラッカーやHMD等を用いてのアイコンにポインティングの機会が多いことを考えると,本研究の有用性は高いと考えられます.文章タスクでは従来手法に比べて操作完了までの時間が長くなっているが,著者らが述べるように凝視に基づく操作手法との組み合わせによって解決できる可能性は十分に考えられます.ただし被験者は1人のみであるため,現時点で十分な有用性が認められるとは言い切れません.
一方,実験設計において凝視時間を1.0sもしくは0.4sにした理由が不明確です.本設計は本実験の結果と大きく関わるため,その理由や参考にした実験があれば,その旨の追記は必要と思われます.

・論文の質:
読みやすいです.

以上の理由より,本論文は採択と判定致します.

この研究をよくするためのコメント

画面における情報の見分けやすさ(複数の情報がごちゃごちゃとしているか/整頓されているか,特定の情報の提示位置が一定か/その時々で変わるか,画面が広いか/狭いか等)によって,提案手法の有用性は多少変わってくると思われます.今回は情報が整頓された比較的狭いディスプレイ環境での実験でしたが,上記のような場面で現状の本提案手法はどこまで機能しうるかといった議論があると面白いと思います.

個人的には,なぜ凝視範囲に基づく操作が行われてこなかったのか,という点についても関心があります.


査読者3

総合点

7: ロング採録に反対しない

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

本論文では,ミダスタッチ問題の軽減を目的として,凝視範囲と凝視時間の両方に基づく凝視による操作手法を提案している.実験により,ミダスタッチ問題を低減できる可能性を示した.

著者らが指摘している通り,従来の視線入力におけるミダスタッチ低減に関する研究の多くで,単純なターゲットが使用されてきた.それに対し本研究では,ターゲットに多くの視覚情報が含まれており,ターゲット内で視線の動きが要求されるような実際的なタスクを想定したミダスタッチ低減手法を提案している.また,停留時間だけでなく,凝視範囲を設定している点にも新規性が認められる.
現状では,実験参加者が視線入力に熟練した著者1名のみであり,提案手法の有用性について十分な判断を行える段階ではない.また,全てのミダスタッチを一律に低減できるとまでは言えない.しかし,有用性を示唆する結果が得られており,今後の研究により有用性が確認できることが期待できる.
正確性や記述の質について,一部懸念があるものの,大きな問題はないといえる.

有用性について十分な検証がなされていないものの,WISSの査読方針を踏まえ,「ロング採録に反対しない」と判断する.

この研究をよくするためのコメント

査読コメントにも記載しましたが,さらなる評価を期待します.
気になった点をいくつか指摘します.

・提案手法に関連すると思われる論文を挙げます.
[a] Kammerer Yvonne, Beinhauer Wolfgang, "Gaze-Based Web Search: The Impact of Interface Design on Search Result Selection," Proc. ETRA 2010, pp. 191-194, 2010.
論文[a]では,複雑な視覚情報を持つターゲットが用いられています(webの検索結果).これは必ずしもミダスタッチ低減のための手法を提案しているわけではありませんが,「対象内における視線移動が誘発されない・必要ないような実験設計」ではない研究も行われているということを明記することをお勧めします.

・提案手法で一部のミダスタッチが低減できることは期待できますが,全てのミダスタッチに効果があるわけではありません.例えば,5ページ左に「対象選択以外の操作を凝視により行うことができる」とあります.これを実装した場合,ユーザは常に視線を動かし続けなければ,頻繁にその操作モードに突入してしまうことになります.また,操作を目的とせず,じっくりと鑑賞することが必要なタスク,例えば,今回の画像でより高度な判断が必要となる場合におけるミダスタッチは防ぐことはできません.本手法で対象とするミダスタッチがどのようなものなのか,あるいは低減できないミダスタッチにはどのようなものがあるのかを記述しておくと良いと考えます.

・1ページ左「(トレモルやドラフト,マイクロサッカード)[1]」とありますが,ドラフト→ドリフトです.また,[1]ではマイクロサッカードではなく,flickeringと表記されています.[1]を引用するのであれば,合わせた方が良いと思われます.

・(2),(3)式で,i=0から開始するのであれば,割り算の分母はm-n+1になるはずです.また,区間数は45ではなく,46になるはずです.「i はi 番目の視線座標」とありますが,これだと混乱するので,「Aiはi 番目の視線座標」などのように書き換えた方がよいです.距離についても同様です.

・実験参加者が1名であることを明記すべきです.またチンレストを使ったのか,あるいは頭部を固定したのかも明記した方がよいでしょう.

・5ページ左「従来手法においてある程度長い凝視時間を用いたとしても軽減できなかったミダスタッチ問題を凝視範囲にて解決できることがわかった.」→従来手法では,長い凝視時間を用いればミダスタッチ問題を“軽減”することはできていると図6から読み取れます.記述された文章はオーバークレームだと感じます.

・5ページ左「このように対象外への操作を行う場合は,ミダスタッチ問
題がより生じやすくなる.」→“ミダスタッチ問題が発生しないように”行われている従来研究[4]に対して,“ミダスタッチ問題がより生じやすくなる”と書くのは,どのような意図があるのか理解できませんでした.

・5ページ右「フィルタを適応」→タイポです.“フィルタを適用”あるいは,“適応フィルタ”のいずれかと思われます.

・提案手法によりミダスタッチ問題が軽減できそうであることは理解できましたが,図6からはタスク完了時間が長くなっているように見えます.このトレードオフについても触れるべきです.