本論文は3名の査読者に査読されました。
本研究ではカジュアルな着物や浴衣に合わせて用いられる半幅帯の帯結びに着目し、その支援を行う枠組みを提案しています。
提案するシステムの新規性・有用性については、いずれの査読者も高く評価しています。
また、正確性や論文自体の記述の質も優れていると判定しました。
上記の内容を総合的に判断し「ロング採録」となり、採録条件も特に必要ないと判断しました。
一方で、以下の点について査読者から疑問があがっています。
・同じ結び方の中から生まれる細かなデザインの差異はどの程度実際の違いとして現れるのか?
改訂原稿および当日のプレゼンテーションで、少しでもそこに言及いただけると、より有意義なワークショップになるかと思います。
各査読者の指摘を鑑みた修正に期待しています。
雑誌論文に投稿される場合は、以下2つを採録条件とします。
・ターゲットユーザを対象とした評価を追加すること
・同じ結び方から生まれるデザインのバリエーションに関する議論を追記すること
7: ロング採録に反対しない
2: やや専門からは外れる
半幅帯の帯結びをパーツの集合として考え,3つの手法・システムを提案しています.
帯結びを支援するデザインツールはこれまで提案されておらず,既存の帯結びを拡張するデザインツールとなっており,新規性が認められます.
また,システムの動作が確認でき,専門家のコメントからも有用性が認められます.
・帯結びを支援するデザインツールを提案している.
・実際にシステムの動作が確認でき,デモンストレーションされている.
・和服の専門家からのコメントをいただいており,アイディアについて高い評価を得ている.
以上の点が強みと考え「ロング採録に反対しない」としました.
今後実施されるのかとは思いますが,提案ツールの良い点・悪い点を明らかにするために,またツールによってどのようなデザインが生まれるのか等を調べるためにユーザスタディを実施していただければ良いかと思いました.
図1(c)の右下の説明がなされていないように思います.
以下誤字です.
・データを作成するの際の補助機能
=> データを作成する際の補助機能
7: ロング採録に反対しない
2: やや専門からは外れる
本論文では、半幅帯とよばれるカジュアルな着物および浴衣に用いられる帯の結びパターンをパーツごとに設計できるソフトウェアを開発した。また、そのツールで設計した結びパターンを簡単に再現できるような帯自体の実装も行った。さらにソフトウェアで設計したデータを提案する帯で作製するためのアルゴリズムを提案した。
ヒモの結び方という非直感的な対象を(特殊な帯を使うとはいえ)GUIと計算により解決するのは技術的に有用だと感じる。また、着物の帯という比較的専門家に限られた知識を民主化するという意味でも本提案は有用だと感じる。提案する3つの新規性に関しては、一部近い研究が存在するものの、どれも正しいと思われる。内容も細かい部分まで詰められているため、基本的にはロング発表で良いと感じている。
その一方で、以下の疑問が残っているため、スコアを7とした:同じ結び方の中から生まれる細かなデザインの差異はどの程度実際の違いとして現れるのか?
論文内では、別の結び方が実現できるという点が強調されているが、せっかくデザインツールとしての自由度が高いので、「同じ結び方の中でどの程度デザインに差異を出せるか」についても言及されていると良いと思う。また、仮に細かいデザインの差がGUIで実装できたとしても、それを実際に結んでみた時に、どの程度ソフトウェア上での理想的な結び方に近づけられるかが分かるとより良い論文になると思う。とはいえ、多くのユーザにとっては、独自のデザインができるということよりも、自分で作っている気になれるというメリットの方が大きいかもしれないので、このコメントを必ず反映してほしいというわけではない。
- 細かいコメント -
伝承のためのデータベース化は大事だという点自体は確かに正しいとは思うが、この方法によるデータベース化は元々のデザインの情報量を大分削っていると思われる。とはいえ、この論文の目的は伝統保持よりもむしろ民主化に近いと思っており、その意味ではデータベース化の目的は達成できているとも言える
6: ショート採録を強く推す
1: 専門外である
本研究ではカジュアルな着物や浴衣に合わせて用いられる半幅帯の帯結びに着目し、その支援を行う枠組みを提案している。キーとなる新規アイデアは、帯結びをパーツ毎にモジュール化して扱い、その組み合わせによって多様な帯結びを表現できるようにするというものである。このようなアイデアの元で、エディタシステムの開発、組み替え帯という実際に着衣可能な機構の提案、及びその組み替え帯を作成を支援するシステムの開発を行っている。これらを通して、和服文化の保存と活用を目指している。
本稿はよく書かれており、半幅帯に関する専門的な部分の説明が前提知識がないとやや理解が難しいことを除いて、研究の新規性や目的などが明確である。私自身は帯結びについて十分な知識がなくキーとなるアイデアがどれだけ新規で有用なものかの判断ができないが、これについてはSection 7において専門家(一名)からのコメントによれば十分に新規で有用であると判断できる。そのアイデアの元で3つの観点で提案を行っており、研究としての完成度も高い。帯結びの敷居を下げている点、およびその方法をユーザ自身が容易にカスタマイズできるようにしている点で、帯結びの新しい文化の発展に寄与できる可能性があり、研究としての意義も評価できる。
以上より、WISSで議論するために有意義な内容を含んでいると判断し、採択を推薦する。
「貝の口系のように用意されたパーツにない形状を含むもの,パーツの重なりが複雑なものは表現できない.」について、現在の実装が単に対応しきれていないだけなのか、それとも技術的な課題があり対応が困難であるのかが明確になるとより良くなる。
専門家からの意見は大変有意義であるが、さらにターゲットユーザ層からのフィードバックを受けることでより完成度の高い研究となると思われる。
構造図の計算の妥当性について、何らかの評価があるとよりソリッドな研究となると思われる。また、提案する構造図の計算がない場合にどれだけ困難なタスクであるかが分からないため、有用性の大きさが分からない。この点についても補足の説明や評価があるとより完成度の高い研究となると思われる。
3Dプリンタなどのデジタルファブリケーションツールをうまく活用することにより、将来的に帯結びの表現力や組み替え帯の機構の自由度が増す可能性があるかもしれない。
本研究では、カジュアルな着物や浴衣に合わせて用いられる半幅帯の帯結びに着目し、その支援を行う枠組みを提案しています。提案する3つのシステム・手法は半幅帯の帯結びのデザイン・作製で有益であると考えられ、WISSにおいては同じ結び方の中でどの程度デザインに差異を出せるか、構造図の計算の妥当性、帯結びの表現力などについて議論できればと思います。