査読者1

[メタ] 総合的な採録理由

昨年度発表された電気分解泡ディスプレイを拡張し,「1ライン電極 + 流水によるティッカー提示」と,「高解像度電極 + グレースケール提示」を実現した論文です.確かな技術的進歩と,アートやエンターティンメント等の幅広い表現分野への応用可能性を感じられます.コアとなる技術は昨年度と同様であることを考慮して,ショート採録と判断しました.

[メタ] 査読時のレビューサマリ

本論文は昨年発表された電気分解によるディスプレイ「BubBowl」を拡張した提案であり,1ラインの電極+流水を用いた残像ディスプレイ的な構成や,解像度を高めてグレースケール表現を実現し,基本的な性能評価を行っており,技術的には新規性/有用性のある提案ということで全ての査読者が同意しています.

一方,タイトルが「アートへの応用」とされていることには強い違和感があります.アート的な視点での記述ははじめにの冒頭にしか記述されておらず,各作品はほぼ技術的な側面からしか説明されていません.アーティスト視点や体験者視点の記述もほとんど存在しておらず,提案技術がアート的な視点からどのような価値があるのか(例えば表現や体験にどう寄与したのか)は理解が困難です.

こうした点と,昨年度の提案の拡張であることを考慮して,掲示板での議論を経て,本提案は条件付き採録(ショート)と判定しました.

以下に条件を記述します.

条件: 昨年の提案(BubBowl)を拡張する技術論文としてタイトルと論文構成を調整してください.一例として,「電気分解気泡表示の拡張: 流水を用いた残像提示とグレースケール提示」のようなタイトルに変更して,論文の構成もBubBowlの拡張(技術課題の整理と解消)→その実装例として作品(体験型の展示)紹介→基礎性能評価という流れが考えられると思います.

(細かなタイトルや論文構成は著者にお任せしますが,アートという用語は少し慎重に利用してください.技術論文としては既に十分な情報が書き込まれているので,特に新規で追記する内容は求めません.)

コメント: 各Reviewerが論文をよくするためのコメントを記載しておりますので,適宜参考にしつつ,著者の判断で修正ください.(採択の条件ではありません)

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以下は採録条件の補足です.
採録条件として,アートの観点からの思想や体験,議論の追記等を補う方向も検討しましたが,不足部分が非常に多く条件化や短時間での修正は難しい点,また(査読者の評価の高い)技術的な記述が削減されてしまう可能性が高い点から上記のように条件を設定しました.

提案技術がアートとして昇華される可能性を否定するものではありません(むしろ十分可能性はあると思います)ので,そうした取り組みにも期待しています.ただ,やはり技術のデモやアプリケーション事例とアートは大きく異なるものですので,自分達が取り組みたいのがどちらなのか,検討されるとよいと思います.

[メタ] その他コメント

総合点

2: 不採録が妥当

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

昨年発表した泡ディスプレイを拡張した提案です.

内容としては,1ラインの電極+流水を用いた残像ディスプレイ的な構成や,
解像度を高めてグレースケール表現を実現していたりと技術的に一定の新規性はあると思います.

しかしながら,「アートへの応用」というタイトルには非常に強く違和感を感じます.アートに関連する記述はほぼ「はじめに」の冒頭にしか出てこず,それぞれの作品がどのような意図を込めた「アート」なのか説明がほとんどありません.

本論文では単にどのように作品を作ったかという技術的な説明しかされていません.たとえばUTAKATAで「WISS」や「〇×△□」という情報を提示して何を訴えようとしているのでしょうか?ここに出すメッセージもアートとして重要だと思いますが,全く検討されているように思えません.Bubble Mirrorはもう少し推察がしやすいですが,水面に映る自分の姿が実は泡で構成されていて,はかなく消えていく効果を狙っている,というようにもう少し狙いを明示的に記述して頂くべきだと思います.

率直に言って,現状の論文を読むと,アート的な価値を主張したいわけではなく,評価実験をしていないために「アート」という言葉を使っているだけに感じてしまいます.アート的な視点からの課題設定(例: こういう体験を作りたいからこういう仕様にした)や,アーティストや体験者の視点からの分析もほとんど行われていません.水を利用したインタラクティブアートの調査も不十分だと思います.

こうした点から,査読者の評価としては(照会プロセスがないなら)「 2: 不採録が妥当」と判断しました.
ただ,技術的には一定の新規性があると思いますので,タイトルや論文の構成を変更して頂けるなら,「4. ショート採録してもよい」としたいと思います.
例えば「電気分解気泡表示の拡張: 流水を用いた残像提示とグレースケール提示」のようなタイトルに変更して,論文の構成も技術的な拡張とその実装例というように調整することが考えられると思います.
(アート的な側面を補強するという方向もあると思いますが,内容の大半が技術的な記述であり,主要な貢献を考えても,この方が素直ではないかと思います)

この研究をよくするためのコメント


査読者2

総合点

7: ロング採録に反対しない

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

この論文では、電気分解によるディスプレイBubBowlの発展として、UTAKATAとBubble Mirrorという2つの展示型の作品が制作されました。また、2つの作品を制作するにあたっての技術的課題として、流れる水面やグレースケール表示などが実現されました。

原稿とともに図や添付ビデオを拝見したところ、新現象を体験する展示として面白そうだと感じました。しかしそれ以上に、BubBowlで未解決になっていた書き換えの難しさや段階的な明るさの表示といった問題が、作品制作を通じて解決されている点が素晴らしいと思います。一方で、技術的にはBubBowlと共通部分が多いことも事実ですので、発表形態としては、ロング採録でも構わないですがショート採録が妥当だと判断します。

この研究をよくするためのコメント

原稿には大きな問題がなく、上述の通り内容に関しては総じてとてもポジティブな印象を受けたのですが、細かく見ると修正をしていただきたい部分がいくつかあります。

・3章のNの意味
図3では、Nは7つの電極のある1つを示しています。一方で、3章本文では「N×7のドットマトリクスディスプレイが実現でき」とあります。この表現だと、まるで流れる方向に対しても最大7列の表示限界がある(= 最大で49画素のディスプレイとして動く)ように見えます。

・3.1節のスリットの工夫
「一方,堰上部に微小な凹凸があると,特定の部分から集中して排水され,表示が歪む原因となる. そこで,堰の上にスリット(幅 10 mm,4 mm 間隔) と粗いメッシュ(約 4 mm)を配置し,堰を乗り越える際の水面の流れを均一に近づける工夫をした.」
とありますが、前段に対して何が「一方」なのかよくわかりません。また、スリットとメッシュを入れることがなぜ水面の流れを均一にするのかが明確ではありません。

・言い回し
概要「この研究では」だと、「この論文でこれから説明される研究では」の意味に見えます

3章「MOSFET のゲートは Arduino に, ソースは接地に,ドレインは電極に接続されている.」
→ 「MOSFET のゲートは Arduino に, ソースはグラウンドに,ドレインは電極に接続されている.」

・4章のN
同じ原稿の中で、別の意味で同じ文字は使わない方が良いです

・Bubble Mirrorの体験者
もしも体験者が著者自身である場合、それはそう明記したほうがよいです。

・これはインスタレーション?
定義の問題かもしれませんが、本論文で提案されている作品は展示場所に特有のものではないのでインスタレーションではないような気がします


査読者3

総合点

8: ロング採録が妥当

確信度

3: 自身の専門分野とマッチしている

採否理由

新規性:
著者らの先行研究で,電気分解によって液体内に気泡の提示を可能にするシステムが提案されており,本研究はその技術を発展させ,2種類のシステムを提案したものである.流水表面に気泡によるアニメーションを表示可能にした点,気泡によって高画素なグレースケール表示を可能にした点が,本研究の技術的な新規性として挙げられる.

有用性,正確性:
先行研究において一度生成した気泡が消えるまでに時間がかかっていた課題を解決するために,本研究では流水路を使用したことによって,気泡による文字やパターンをアニメーションで表示可能にしている.また先行研究を拡張し,電極の数を増やし,個々の電極への通電時間を調整することによって,高画素なグレースケール表示を可能にしている.それぞれについて,情報提示装置としての性能評価も行われており,気泡による文字や画像の表示可能性が示されている点で有用性がある.

論文自体の記述の質:
全体として記述の質は高い.ただし,著者らの先行研究[5]や[7]から,どの部分が改善された実装なのかが明示されていない.

この研究をよくするためのコメント

先行研究を発展させ,気泡による情報提示の新たな可能性が示されている研究であり,興味深く拝読させていただきました.

1章の最後に,本稿では [5, 7] に加え, 改善された実装とその表示性能の調査を報告するという記載がありますが,具体的にどの部分が改善された実装なのかが,後の章を読み進めてもわからなかったので,明記してください.

UTAKATAの性能評価では,表示領域内に最大で 5 文字ま で同時に表示できることが記載されていますが,実際にどの文字なら5文字表示できるのかがわからないため,この実験で表示した文字の種類やフォント幅についても記載してください.