2次元のレンティキュラをUVプリンタで実装する方法は,一方の査読者が示すような既存手法もありますが,レンズアレイはそれとは差別化が可能であり(例えば,見る方向の自由度を調整できる),これを利用することには一定の価値があるかと思います.基礎性能の評価も実施されており,当該デバイスの有用性も評価されていますので,査読者間の議論の結果,採録は妥当であると考えます.しかしながら,本稿では淡々と提案手法の実現と評価を述べるにとどまっており,この手法が提案されるにあたってのモチベーションの記述が不足しているという観点で改善の可能性があると考えます.
また,本稿の内容のうち実装手法のうちレンズの作成部分が既存であること,インタフェースの設計はシンプルなものにとどまっていることなどから,プレゼンテーションの主眼は実現されたデバイスの性能評価に集約されるものと考えられますので,発表の長さとしてはショートが妥当であると判断しました.
本稿の改善を考える上で,レンズアレイの価値と意義(開発動機)がさらに明確に書かれていると,より良い報告になるのではないかと考えます.
6: ショート採録を強く推す
1: 専門外である
UVプリンタによって作成されるレンズを使った2次元レンティキュラを用いた,方向を変えることにより提示情報を変化させるサーフェスのデザインツールの提案とレンティキュラの情報提示の性能評価の論文です.
2次元レンティキュラ自体はよく知られた技術ではありますが,UVプリンタのような安価なツールによるレンティキュラの性能評価は基礎知見として一定の価値があると考えます.
デザインツールは実際にレンティキュラの上から描くことを期待されているように読めますが,これは適切な実装なのでしょうか.特にデザインをした端末上でレンティキュラを利用しない場合には,エディタが動くPC/タブレット端末上にレンティキュラのシートを張り付けるより,端末の傾きに合わせてシミュレーションが動作するほうが,操作の問題が発生しないぶん適切な気がします.
6: ショート採録を強く推す
2: やや専門からは外れる
昨年度の3Dプリンタを利用した「UV プリンタを用いたレンズ造 形手法とその応用」の結果を
うまく活用し、二次元レンチキュラレンズを作成しレンチキュラを実現しています。
論文の内容に関しては、有用性、正確性は見られます。
1)従来手法との比較
UVプリンタと従来型レンチキュラレンズを使った場合と本手法の差が
何になるのかが知りたい。今回3つのメリットをあげていたが、
そもそも従来のレンズに比べての性能が分からないと、
本手法の良さが伝わらない。
2)レンズを使わない手法(SIGGRAPH2018)
Kaisei Sakurai, Yoshinori Dobashi, Kei Iwasaki, and Tomoyuki Nishita. 2018. Fabricating reflectors for displaying multiple images. ACM Trans. Graph. 37, 4, Article 158 (August 2018), 10 pages. DOI:https://doi.org/10.1145/3197517.3201400
は、UVプリンタで、レンティキュラレンズを使わずに、レンティキュラと同様なことを実現している。(4方向から見た画像が変化している。)この論文との比較は重要だと考えられる。
7: ロング採録に反対しない
3: 自身の専門分野とマッチしている
新規性:
UVプリンタによってレンズを造形する先行研究を発展させ,レンチキュラを用いたコンテンツ制作を可能にするツールを提案している.レンチキュラレンズアレイのサイズや厚み,レンズの直径をカスタマイズ可能にする例はこれまでになく,様々なレンズに対応した画像パターンを制作可能にするツールの開発にも新規性がある.
有用性:
評価実験において,ディスプレイの角度によってパターンが変化することが確認できている点や,提案手法を用いた様々な応用例が示されていることから一定の有用性がある.ただし,論文に載せている写真(図8など)やデモビデオでは,画像パターンの種類によっては,見えない想定の画像パターンも見えてしまっているケースがあり,案内表示などの実用的な場面で使用するにはそこを改善する必要があると思われる.
論文自体の記述の質:
わかりやすく明確に書かれている.
レンズなどの光学素子を造形する手法はこれまにも提案されていますが,本研究では一般のユーザがレンチキュラを用いたコンテンツを手軽に作れるようにするツールを開発しているという点に独創性があり,パーソナルファブリケーションの幅を広げることに寄与する研究であると思いました.
評価実験では,市松模様の色が角度に応じて変化している様子を確認していますが,画像パターンの形が大きく変わるような例についても,実用性を担保するためには評価すべきかと思われます.
全ての査読者が,レンズアレイによる2次元レンティキュラの実現とその基礎性能の評価について,新規性と有用性を認めています.発表の規模からショート採録が妥当と判断します.