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査読者 1

総合点

7

確信度

3

コメント

熱溶解積層方式3DプリンタNinjabot NJB-200を用いて、造形時の高さと樹脂量のパラメタを様々に変えながら出力される造形物のパターンを分析した調査論文である。また、調査結果をもとに意図的にテクスチャを変化させた造形物を出力できることを示した。

パターンは6種類に分類され、それぞれを実現するためのパラメタが報告されているが、これはNinjabot NJB-200に固有のものであると考えるのが自然であり、この制約が論文としての弱点になっている。他のプリンタでも(パラメタが若干違ったとしても)同様の出力が得られることが分かっていれば、強いcontributionと言えるだろう。

採録判定時のコメント

熱溶解積層方式の3Dプリンタで、従来なら出力エラーとされるような表現を「表現力拡張」と捉えて6種類に分類し、それを安定的に出力可能なパラメタ条件を調査した論文である。興味深い調査結果であり、論文の構成もしっかりしているが、特定機種の「ハック」を超える汎用的な知見が十分に示されていないため、ショート採録となった。

レビューサマリ

全体の構成: ABS樹脂の熱溶解の特性と3Dプリンタの積層法をうまくハックして、エントリーモデルの熱溶解積層方式(FDM)3Dプリンタにおいて、6種類の手触りや見た目の出力結果を得られるパラメタを調査した論文である。 改良のためのコメント等: ・モチベーションについて: 精度の高いFDMの3Dプリンタや、別の造形方式(レーザー焼結や光学方式)を用いれば、あたりまえに出力できる表現も含まれている点には言及すべきである。これは専門家であれば知っていることなので、先に示すのが建設的かつフェアである。そのうえで、なぜ提案手法のようなことが必要なのかを議論したほうがよい。 すなわち、「手軽に入手できる低精度のプリンタで様々な表現を可能にしたい」というモチベーションを最初にはっきりすべきである。例えば、現状の図6をはじめに持ってきて、可能にしたい表現を先に述べるなどの工夫が必要であろう。また、「造形エラー」でなく、「素材性」のような、よりポジティブな用語選択をしたほうがよいという指摘もあった。 ・手法について: 分かりやすく書かれている。ただ、特定機種やソフトウェアに関する固有の内容が多く含まれており冗長である(特に、らせん構造の出力に関する説明と議論が長すぎる)。一方で、実際に本手法を活用したいと思った場合にどのようなワークフローになるのかといった説明・議論が足りていない。 ・議論と今後の展開について: 今回はNinjabot NJB-200とABS樹脂のフィラメントだけで実験している。WISSのショート採録論文としては十分な知見と言えるが、今後は、他の3Dプリンタ、他の素材のフィラメントの場合どうなるのかといった追加実験を重ねて報告すれば、より汎用性が高く、多くの人が活用できる論文にできるだろう。

その他コメント

査読者 2

総合点

7

確信度

3

コメント

この論文はABS樹脂の熱溶解の特性と3Dプリンタの積層法をうまくハックして,造形時の新しい手法を生み出している.論文中にも指摘されているとおり,3Dプリンタの出力と位置を制御して素材性を拡張する方法はすでに複数ある.この論文で実践されている手法も,そのうちの一つと言える.通常の3Dプリンタの構成を用いて,出力する際のABSの流入量とノズルの高さで制御する手法は,着目点が面白く,出力結果も先行手法に劣らず見栄えが良い.手法の面白さと出力結果を見ると良い研究である.ただし,ロングにするには冗長な部分が多く,物足りない気がした.

特に,以下の2つの点で疑問を持った.
(1)らせん構造を除き,提案されている出力方法は通常の3Dプリンタでも設計・出力可能である点.
(2)「プリンタの表現力」という言葉はこの研究成果をアピールする用語として適していない点.

(1)については,通常の3Dプリンタでも出力ができるから新規性がないと言うことではない.しかし,通常の3Dプリンタでもできないことはない.精度の高いプリンタを用いればできる.(私がこの論文の主張を読み違えていなければ)エントリーモデルの3Dプリンタであっても,ノズルのパラメータを制御すれば質感の異なる出力が得られる点が魅力であると思われるので,そこを強調してほしい.この手法の利点を述べることに努力していないと感じたので指摘した.その点を主張できればより魅力的になるだろう.

(2)について,いま適した言葉を出せるわけではないが,例えば「素材性・さわり心地・質感」のように具体的な言葉を用いることもできる.現在のタイトルでは漠然としている印象なので,この研究ができることを的確に示す言葉を選定してほしい.論文の占める割合は小さいが,大事なことなので指摘した.

以下,論文中の細かい点について指摘したい.

・「造形エラーを活用」という言い方をしているが,エラーとして扱われてしまう出力も含めて3Dプリンタの出力機能として扱えるなら,「造形エラー」と呼んでいるものも「プリンタの機能・性能」と呼ぶこともできる.積層方式の3Dプリンタの積層ピッチを可変にしている時点で特殊な手法ではあるが,この研究の手法が今後のスタンダードの一部になるかもしれないので,将来の3Dプリンタにあるべき機能として主張してもいいはずである.

・全体的に,らせん構造の出力に関する説明と議論が多く,多少冗長に感じる.図6のa, bについての説明や図式があって欲しい.また,これらの方法が整理されて,それぞれの構造についてパラメータ・結果・適した用途がまとめられていると良い.
例)「表面の曲面処理・側面の凹凸処理・らせん構造」の3点に分類して,これを実現するためのパラメータを探索する.得られた結果をまとめ,拡大図なり断面図,概念図を示す.最後にアプリケーションを図6のように示してもよい.

・アブストラクト,イントロダクションを読んだ際,最終的に何をしたいのかわからなかった.図6を図1として見せても良いはずなので,最終的な造形物を1ページ目で見せながら,研究のゴールを論文で説明してほしい.

・論文の構成について
図3と図5の対応は認知的に理解が難しい.面積が狭いので線をグラフの外に引き,そこに番号を記載して対応関係を見せるとよいはずです.
3.1節はRepRapをどのようにHackしたかという情報だが,これは技法の話なので不要と思われます.その代わりに汎用的な3Dプリンタにおける方法があれば有用ではないでしょうか.

以上は国際会議への投稿時にも参考にしてもらえるとありがたい.
とても良いアイディアと研究成果なので今後もブラッシュアップしてください.

査読者 3

総合点

5

確信度

3

コメント

着眼点は興味深く,FDM形式の3Dプリンタを日常的に使っているユーザにとって制御方法とその結果観察において有益な情報を含んでいるといえる.この点は評価したい.FDMハックと思えば面白い論文であると考えることができなくもないが,なぜこのようなことが必要なのか,その価値がいまいち理解し難い.著者らが図6に示すような造形表現をしたいのであれば別の造形方式(レーザー焼結や光学方式等)を用いればよいのではないでしょうか?ハックを楽しむ観点からすれば,理解はできますが,やはり,わざわざFDM方式を工夫して,他の造形方式で再現可能な造形表現を行っている点の有効性がよくわかりません.逆に,他の造形方式ではこのような出力は困難である,という議論があれば納得がいきます.

またこの手法を実際に利用するとなると,従来のCADでのデータ作成から,プリンタへ出力するプロセスとはことなることが想像できます.例えば腕時計バンドは図6(a)のようなテクスチャデータをCAD上で作成し,それが適時ソフトウェア側で解釈され,プリントされるのか,それともユーザがパラメータ調整だけで作成するのか,そのあたりのユーザと3Dプリンタとの対話設計に関しても言及してもらったほうが,良いかと思います.

むしろ,デジタルとしては失敗として捉えられるこのような造形結果が人間により芸術表現となりうることを示すためのアート作品を制作した.くらいまで突っ込んだほうが(論文になるかどうかは別として)作品としてより深い思考や気づきを読者・鑑賞者に与えてくれるように思います.

今回はフィラメントをABSだけで実験していますが,硬化速度のはやいPLAやゴムライク等の別材料の場合,パラメータ変更がどのようになるのか,また新しい造形手法が発見できるのか,是非試してみてください.

査読者 4

総合点

5

確信度

1

コメント

評点の根拠:
3Dプリンタの造形エラーを利用して表現能力を拡張するというユニーク課題に取り組んだ点は興味深く、添付の参考ビデオからは提案理論に基づいたパラメータ調整を行うことで様々な造形パターンを任意にプリントすることが可能となっていることが確認できる。

論文改善のためのコメント、疑問:
今後研究を発展させるためには、提案手法が他の3Dプリンタでも再現性があるのかについての議論が必要かと思います。