査読者 1
総合点
7
確信度
1
コメント
本論文では,モバイルVRを対象に,背面カメラから得られた手の位置を活用したターゲット選択と,指の動きによる選択を可能とする認識手法を提案・評価しています.また,そのアプリケーションとして,シューティングゲームを実装し,得たフィードバックを報告しています.
評点の根拠:
スマートフォンを用いたモバイルVRHMDでのポインティングの難しさ,それによるアプリケーションの制限については同意できる上,背面カメラの活用によって追加機器なしに可能とした点は非常に素晴らしいと思います.
また,その認識手法,精度の評価について十分な記述がなされていると思います.
論文改善のためのコメント、疑問:
引用に関して,先行研究とするにはスコープ外となりそうですが,引用の上,本提案との差異を議論することを勧めます.
(認識手法及び技術は異なるものの)HololensのAirTapは本論文をみたときに多くの方が想像される可能性があるように思います.
また,冒頭で,「タッチパネルを覆うことによりタッチ操作が制限されるため,ゲームのようなインタラクションを必要とするアプリケーションは実現が困難である.」としていますが,GearVRは横面にタッチパットを,MilboxTouchでは横面にステッカー型入力部を設けており,ポインティングこそできませんが,ゲームのようなインタラクションを必要とするアプリケーションを数多く提供しています.本手法とは解決する問題が異なるものですが,引用・比較が必要かと思います.
また,親指を押下することで選択としていますが,押下動作そのものが、ボタンを押す行為という経験との照合も含めて,手全体を動かしてしまいやすい動作なのではないかと思います.
認識手法の改良の他に,選択動作を変更した際の操作性と認識精度の検討も期待します.
採録判定時のコメント
近年盛り上がりつつある簡易VRの課題(操作が難しい)を、追加装置を用いずに解決した点が評価されました。指先でのターゲット選択の性能評価に加え、アプリケーションの実装もきっちりと行われています.一方で、画像処理の手法自体には新規性は無く、実環境での性能限界についても述べられていない(複雑な背景からの指先の分離は可能か?)など、不足している部分もあることから、ショート採録となりました。
レビューサマリ
全体の構成:
スマートフォンを利用したHMDのための指先によるポインティング手法として,背面空間上で親指を立てた握り拳をカーソルとして利用し、指の動きによる選択を行う手法を提案しています.モバイルHMDやVRアプリケーションに適用可能な、追加装置を用いないポインティングを提案・実装した点が評価されました。
改良に向けたコメント等:
・提案されている認識手法(肌色による手の抽出)はごく簡単なものであり、もう一歩の工夫が求められます.認識手法そのものの説明と評価に加えて、
・本手法を非力なスマートフォンで実装することにおける(先行事例では発生しない)問題点とその解決法
・モバイルHMDでの実装で起こりうるノイズ耐性・処理速度・ユーザビリティへの言及
・スマートフォンのセンサや入力技術に関するより広範な比較と議論
等を行うことで,提案手法の妥当性がより強調されると考えられます.
また,性能評価の説明に関しても,多少説明の不足が指摘されていますので,査読者のコメントを参考に発表での説明を充実させることをおすすめします.
その他コメント
なお、指先による指示インタフェースの古典としては以下のものがあります。
Bolt, Richard A. “Put-that-there”: Voice and gesture at the graphics interface. Vol. 14. No. 3. ACM, 1980.
画像処理を用いた例では、以下のものがあります。
Fukumoto, Masaaki, Yasuhito Suenaga, and Kenji Mase. "Finger-Pointer: Pointing interface by image processing." Computers & graphics 18.5 (1994): 633-642.
赤外線照明を用いて、近景(手)と背景の分離を行った例には以下のものがあります。
沼崎俊一, et al. "ジェスチャ入力に適した画像入力装置の提案とその 3 次元情報検出性能の検討." 情報処理学会論文誌 41.5 (2000): 1267-1275.
査読者 2
総合点
8
確信度
3
コメント
HMDの背面空間上で親指を立てた握り拳をカーソルとして利用し、ターゲット選択を行う手法を提案しています。提案手法は新規性があり、有用性も高いと判断します。もう少し実装に工夫があったほうが良い部分があると思いますが、研究のプロトタイプとしては十分だと思います。研究手法も妥当であると思いますし、問題なくロングで採録と判定したいと思います。
何点かマイナーなコメントがありますので、以下に示します。
- 図1はイメージ図だと思いますが、完成度が高いため、誤解を与えるのではないかと危惧しています。
- 性能評価実験の参加者が全員男性なのは爪の長さやマニキュア等の影響を考慮してのことでしょうか。
- p5「また,ターゲットの中心 の座標と選択した座標の x または y の差が μ±3×σ (μ:平均値,σ:標準偏差)の範囲を外れる選択を 外れ値として除外した.」件ですが、「誤って再びそのターゲットをタッチ すること,および FistPointer において被験者の意 図しないクリック操作判定があったため」というのはシステム側のエラーでしょうか、それともユーザ側のエラーでしょうか。
査読者 3
総合点
4
確信度
3
コメント
スマートフォンを利用したHMDのための,指先によるポインティング手法を提案しています.スマートフォン背面のカメラを利用しているため,追加のハードウェアを必要としないという点が特徴です.
近年急速に普及し始めたスマートフォンを利用したHMDに適用するという点に有用性が感じられます.
しかし,提案手法そのものは,指先追跡とジェスチャによるクリックをスマートフォンの背面カメラを用いて実装したものであり,(手法そのものには)特段の新規性は認められません.例えば,著者らが引用してように文献[5]や[12]では,手のジェスチャを用いたポインティングとクリックはすでにあり,スマートフォンの背面カメラを用いたジェスチャ認識手法も[1]で実現されています.既存研究で用いられてきたwebカメラやコンピュータと,現在のスマートフォンのカメラやCPUとに大きな違いがあるとは思えず,単に実装先を変えただけと言えます(もし,画像解像度が違う,演算性能が違うなどの違いが両者の間にあり,スマートフォンを用いることがチャレンジングな課題であるということであれば,それを主張してください).
提案手法により「追加のハードウェアを必要としない」でジェスチャを認識できる点や,ジェスチャの形状が違う点を主張するだけでなく,スマートフォンを利用したHMDに適用することに伴う有用性や解決すべき課題を,従来研究と比較しながら述べた方が,本論文の主張が明確になると考えます.例えば,両手が使える点や頭部のジェスチャも利用できる(できてしまう)点,計算リソースが限られてしまう点(画面レンダリングにもリソースが配分されてしまう),指先を直接視認できない点,様々環境下で利用される可能性があるためノイズ耐性が非常に重要になる点などが考えられます.
また,精度や利便性向上のための議論においても,単に既存研究を引用するのではなく,スマートフォンを用いたHMDに適した手の形状(カメラの画角内で円滑に実現できるジェスチャ,手を伸ばした状態でのジェスチャ,入力のバリエーションに応じたジェスチャの種類と認識率とのトレードオフなど)や,頭部ジェスチャとの組み合わせ,スマートフォン内のセンサを活用した精度向上の可能性,手を検出するまでの時間(常時手をかざしておくのではなく,必要なタイミングの時にだけ手をかざせるようにする),スマートフォンを用いたHMDでポインティングを行えることの有用性,などについてさらに深い議論があると,論文の品質がより向上するのではないかと考えます.